小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

67 「イスラーム帝国のジハード」  「興亡の世界史」を読む

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 講談社の「興亡の世界史06」として刊行された「イスラーム帝国のジハード」(小杉泰著)は、「イスラム」の複雑な歴史を描き、最近「聖戦」と訳される「ジハード」についても詳しく触れている。 「ムハンマド」がイスラム預言者としての行動を始めたのは40歳の時といわれる。迫害に耐えながらイスラムを広め、後継者によってイスラムは中東を中心に広大な帝国を築く。それは「戦いの歴史」でもあった。

 イスラムは仏教、キリスト教とともに世界の3大宗教と教えられたが、私だけでなく日本人は仏教、キリスト教に比べイスラムに関しての知識や関心はそう高くはないと思われる。豚肉を食べないことや一日に何度かコーランを唱えること、ラマダーンという断食を行うこと程度のことは知っていても、一般的な日本人はこれ以上のことはあまり知らない。

 世界ではイスラム共和制を樹立したイランの革命(1979年)や、ジハードを唱える急進派、過激派といわれるグループによる9・11テロ、その後のイラク戦争と、イスラムをめぐる動きはめまぐるしい。 いまイスラムは世界の中で大きな位置を占めており、世界の動きを理解するには、イスラムを知ることが重要な時代になっているのである。この本は、こうしたイスラムの凄絶な歴史を克明にたどっていて難解ではあるものの、そう時間をかけないで読了できる1冊といえよう。

 小杉は、本書のまとめともいえる「21世紀の眺望」の中で、急進派が活動する余地が生じる大きな理由に不正の存在を挙げ、「ジハードを生み出す政治的・社会的矛盾をなくす必要がある。急進派、過激派が世界を不安定にしているとすれば、解決する長期的方策は、より公正な国際社会を築くことだ」と書いている。 それは気の遠くなるような時間、根気を要することだが、この原則を私たち日本人も大事にしたい。

 宗教とは何かと問われると、信仰心のない私には明確な答えは言えない。「心の拠りどころ」といえるにしても、その比重は人によって千差万別だ。 不公正な社会では、宗教の求心力は大きい。本書で小杉が指摘している通り「急進派や過激派はこうした社会の矛盾を唱え、支持を引き出そう」としているのである。だからこそ、テロ撲滅のためにも、「日暮れて道遠し」の感が強くとも、国際社会から不公正さをなくす格段の努力が不可欠なのである。