小径を行く 

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。(筆者=石井克則・遊歩)

2025-05-01から1ヶ月間の記事一覧

2779  懐かしき札幌と飯舘村 リラ冷えの季節の詩(うた)(郷愁シリーズ)

北海道ではライラックが咲くころリラ冷えが来る 今日は5月の末日、31日爽やかな季節のはずだ午後4時の気温は15度ちょうど3月に戻ったような寒さ晩春、一時的に寒くなることを寒の戻りという明日からは6月、そろそろ衣替えの時期なのにこの寒さを何と…

2778 近づく富士の季節 俗な句になっても……

友人の絵「富士山と月」 「赤富士」は、富士山が、夏の朝日に赤々と染まる現象だ。俳句では夏の季語になっている。これに対し「青富士」はあまり使わず、季語にもない。だがこの「青富士」を使った句がある。私の家にも友人が描いた2枚の富士山の絵がある。…

2777 求められる美しさ 大鵬、千代の富士と大の里

十和田市現代美術館カフェ&ショップの壁画「オクリア」 大相撲の大関、大の里の横綱昇進が決まった。初土俵から13場所というかつてないスピードで綱を締めることになった。天才なのだろう。私が知る限り角界で一番美しいと思った力士は第48代横綱大鵬で…

2776 混乱の21世紀の象徴 トランプ政権とハーバード大の対立

雨上がりの爽やかな空 古い話だが、1950(昭和25)年に遡る。当時の吉田茂首相が東大の矢内原忠雄総長を「曲学阿世の徒」と非難したことがある。「曲学阿世」とは、真理を曲げた不正な学問のことで、中国の歴史書「史記」にある「学を曲げて以て世に阿…

2775 あの人たちはどんな人生を 青春時代への想像の旅

つつじとブラシノキのコラボ 時々、昔の友人・知人はどうしているだろうと思うことがある。例えば高校時代の列車、バスで一緒だった人たちを思い出す。いずれもがもう長い間、会ったことはないし、消息も知らない。だが、元気に年輪を刻んできたに違いないと…

2774 気象異変がここにも 咲かなかった桐の花

花が咲かなかった桐の木 政治家を筆頭に、この世界にはおかしな人間が増えている。それと歩調を合わせるように、自然界も次第に変調を来している。昨今、世界の動き、日本社会を見ていると、そう思わざるを得ない。自然界の変調は気象の狂暴化現象だ。そのほ…

2773 旅の小さな必需品 爽やかな朝を迎えるために

かなり以前の話になる。海外に転勤する友人に、一冊の本とトラベルウォッチ( 旅行用の小型目覚まし時計)を記念に贈ったことがある。どんな理由だったのだろう。当時の備忘録を読み返してみた。それは作曲家、團伊玖磨さん(1924—2001)の旅に関するエッセ…

2772 海が見えない山でも 郷愁誘う一茶の句

鋸山の眼下には東京湾が見える 夏山や一足づつに海見ゆる 旧暦5月(現在の6月)、小林一茶(1763—1827)は江戸から房総半島の木更津に舟で渡り、安房方面を旅したという。夏山を登る途中、一歩一歩進んで行くと、海が見えてくる、という光景を描いたものだ…

2771 「あの時の苦労が心の支えに」 『今しかない』11号から(2)完

上向きに咲くスカシユリ:ロリポップ 「苦労人」という言葉がある。「多くの苦労を経験し、世の中のことや人情に通じている人」(新明解国語辞典)のことである。米の値段が高騰している中、講演で「コメは買ったことはない。支援者の方々がたくさんコメをく…

2770 「苦労から得たものは」 『今しかない』11号から(1)

白のシャクヤク(ボタン同様、ややピンクがかって見える) 「苦労」という言葉を辞書で引く。「困難な条件下で何かをやろうとして肉体的(精神的)に多くの労力を費やすこと」(新明解国語辞典)、「苦しみつかれること」「骨を折ること。心配。労苦」(広辞…

2769 人と時代の営みを叙事詩に 高橋郁男著『風信』を読む

《人と時代の営みの一端を、現実と想像の世界とを糾(あざな)いながら、散文詩風に綴ります。折々の、風の向きや風の便りをのせた『風信』のように》 元朝日新聞記者(素粒子、天声人語担当)のコラムニスト、高橋郁男さんが詩誌「コールサック」に長期連載…

2768 タイサンボクは鎮魂と希望の木 名作『じろはったん』では「葉の舟」

4、5月は「花の季節」といっていいだろう。草も樹木も次々に花を付ける。今は街路樹のユリノキが満開だ。そして間もなくタイサンボク(泰山木)の白いやや大きな花を見ることができるだろう。山本健吉編『句歌歳時記 夏』(新潮社)を開いたら、タイサンボ…

2767 朝の讃歌 「おはよう」は夏の響き

金沢文庫・称名寺の黄色の花菖蒲 立夏が過ぎて夏至があと1カ月余に迫り、夜明けが次第に早くなりつつある。夏の早朝は気持ちがいい。子どもたちは朝が苦手かもしれないが、逆に高齢者は朝が友だちといっていい。散歩やラジオ体操で交わされる「おはよう」と…

2766 洞穴に響くしなやかな歌声 「無告の民」との一夜 

森で控えめに咲くスイカズラ 「無告の民」という言葉を聞いて、私はトランプ・アメリカによって追放された不法移民や戦争、内戦で国を追われた難民を思い浮かべる。手元にある先輩編集者のエッセーにも、同じタイトルの文章が含まれていた。かなり以前のもの…

2765 「うどんの花を見たい」と言った官僚 うそのような本当の話

調整池の森に咲くガマズミの花 佐賀県唐津市で農業を営みながら農業をテーマにした小説やルポを書いていた山下惣一さん(1936—2022)の『村に吹く風』(新潮文庫)を読み直していたら、信じられない話が書かれていた。うそのような本当の話である。1989…

2764 釈迦の不戦の教えと現代 世界で一番貧しい大統領逝く

平泉・中尊寺境内 ロシアとウクライナの戦争になって3年余。停戦をめぐって駆け引きが続いている。古来、戦争は勝者にも敗者にも犠牲は大きい。「勝者は怨み(恨み)を招き、敗者は怨み苦しむ。そのいずれでもなく、こころ寂静(しずか)な者こそ、日々の暮ら…

2763 人や動物の夢の世界は 鬱陶しい日々の中で

目に優しいバラ・アンジェラ 「こんな夢を見た」。夏目漱石の『夢十夜』は、このような書き出しで人間と夢に関する不気味で不思議な10の話が展開されている。言うまでもなく、人間は夢を見る動物だ。では他の動物はどうだろうか。最近の研究によると、人間…

2762 大谷と並ぶ野球少年ぶり 子規とベースボール

モミジの白い花 現在、日本の人気スポーツの一つである「野球」が「ベースボール」といわれた明治時代、俳人の正岡子規はこの競技に熱中し、新聞にその魅力を紹介した。それから1世紀以上の時が経過し、本場の大リーグで大谷翔平をはじめとする日本人選手が…

2761 黒く変色した花の運命 『なまずとあざみの話』から

風にそよぐアザミ 散歩コースにある調整池の一角にアザミの花が咲き始めた。気が付くのが遅かっただけかもしれない。春の季語(夏の季語は夏薊)になっており、春咲きと秋に咲くものがあり、種類も70~80種と多く、かなり長い間、目にする野の花だ。調整…

2760 ひめゆりの塔での不快な思い出 歴史の書き換えとは?

今は静かな沖縄の海だが…… 歴史の改ざんをテーマにした作品といえば、ジョージ・オーウェルの『一九八四年』だろうか。「ビッグ・ブラザー」率いる全体主義国家に真理省記録局と言う部門があり、歴史の改ざん作業を進める。1949年に発表された近未来小説…

2759 心優しき頑固親父 暗雲とエゴの木の詩(うた)

白い小さな花がびっしりのエゴノキ 夕方、目の前が急に暗くなりました空を見上げると、あの人の顔に似ている雲が出ていました怒っているような、それでいて笑っているような何とも不気味な雲です今にも雨を降らせるような黒い雲それを私はトランプ雲と名付け…

2758 5月に似合う蕪村の感性 「郷愁の詩人」と朔太郎

小高い山から見たある都市の風景 君あしたに去りぬゆうべの心千々に何ぞ遥かなる。 君を思うて岡の辺(おかのべ=丘のあたり、ほとり)に行きつ遊ぶ。岡の辺なんぞかく悲しき。 これは、誰の詩だろう。詩に詳しい人には常識だろうが、江戸時代の俳人で画家の…

2757 それぞれの「柏餅」 俳句で味わう哀愁の季節感

白い花のヤマボウシが満開 子どもの日。かつては柏餅と粽(ちまき)を食べる習慣があった。連休を利用して故郷に帰省して、柏餅を食べている人たちもいるだろう。柏餅は夏の季語であり、中には哀切を帯びた句もある。以下の3句はその代表かもしれない。この…

2756「HOME  SWEET  HOME」よ 憂いと悲しみの目をした大統領

(美しい夕焼け) 「HOME SWEET HOME」は、「愛しいわが家」あるいは「楽しきわが家」という意味だ。アメリカの第16代大統領、エイブラハム・リンカーン(1809—1865)がこの言葉を愛したという。南北戦争(1861~1865)に勝ち、奴隷を解放したことで知られるリ…

2755 田中投手の老いとの闘い 劣らぬ優美と力強さの魅力を

人間だれしも老いることは避けられない。それを精神力でカバーする場合もあるが、スポーツ仙選手の場合、肉体の衰えは致命的だ。プロ野球で大投手の目安といわれる200勝まであと2勝に迫っている36歳の田中将大投手(巨人)の最近の投球を見て、彼も選…

2754 「特許許可局」の季節 初夏を告げるホトトギス

朝、散歩をしていると、「チョットコイ、チョットコイ」と鳥の鳴き声がする。4月はウグイスとともに、この鳴き声がよく聞こえた。コジュケイという野鳥だ。今日から5月。今度は「トッキョキョカキョク」という鳴き声の野鳥の出番になってくる。ホトトギス…