小径を行く 

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。(筆者=石井克則・遊歩)

2024-01-01から1年間の記事一覧

2678 陽光に思うこと 朝日は希望・思い出蘇る夕日

朝日と夕日、どちらが好きかと聞かれたら、どのように答えたらいいのだろう。作家の沢木耕太郎が「朝日より夕日の方に心を動かされ、はっきりと夕日の方が好きだと答えるような気がする」と、書いているのを読んだことがある。では、私はどうだろう。

2677 冴えわたる「冬の星座」 静寂の朝に

昔習ったことがあるメロディーがラジオから流れている。途中まで聞いて『冬の星座』という歌だと気が付いた。夜空の星が輝いて見える季節だ。空気が乾き、放射冷却現象となった早朝、西の空はピンクと紺青の美しいコントラストを見せている。夜空の輝きの余…

2676 混沌の世が続く21世紀 今年を振り返って

今年も残すところ少なくなり、1年を振り返る時期になった。2024年の世界の動きを見ていて思い浮かぶのは物事の区別や先行きがはっきりしないことを指す「混沌」(渾沌)という言葉だ。来年で21世紀も4分の1。人類は依然として混沌とした時代を送る…

2675 闇バイトの若者と独裁者 共通する自己抑制力の欠如

闇バイトに引き込まれた若者による犯罪が相変わらず絶えない。実行役は次々に捕まるのに、指示役が逮捕されないためか無軌道な凶悪犯罪が相次いでいる。千葉県柏市と旭市で22日未明に連続して強盗傷害事件が発生し、闇バイトなどが絡んだ「匿名・流動型犯…

2674 子規慰めた冬のバラ フランスの一輪挿し花瓶

フランスの一輪ざしや冬の薔薇 正岡子規が30歳の時(1897=明治30年)に作った句だ。子規の母方の叔父(母八重の弟)、加藤恒忠(1859~1923。号は拓川=たくせん)からフランス土産として花瓶をもらい、妹の律が根岸の子規庵の部屋に冬咲きのバラを…

2673 不良少年が立ち直った本 ルソーの『エミール』と知人

かつて不良少年だった大先輩の知人(故人)が1冊の本によって立ち直ったことを知った時、私は本の力を感じたものだ。闇バイトに落ち込む若い人に、この話をぜひ伝いたいと思う。本離れが進み、SNS全盛の時代だが、知人の話は若い人たちにも生きる上で参考に…

2672 追憶の冬の朝 最初の記憶は何歳?

昨日(15日)は満月で、今日の早朝、西の空には大きな月(残月)が輝いていました。寒さが増した最近、早朝の散歩はやめているのですが、今朝だけは特別に月を見ようと近所の調整池まで歩きました。そこには写真のような、美しい風景が広がっていたのです…

2671 お寒い新聞と政治 想像の旅・韓国へ

「朝の散歩がこの上なく心地いい時期をようやく迎えた」。朝刊を読んでいて目を疑った。慌てて携帯の気象サイトを見る。首都圏のわが家周辺の午前6時の気温は氷点下1・4度、今冬一番の冷え込みだ。朝日新聞の「くらし」の頁にある「ひととき」という女性…

2670 月は見ている 「金」にまみれた下界照らす

「そうです、いままでこの月の体験しなかったことがあるでしょうか!」。アンデルセンの『絵のない絵本』(矢崎源九郎約・新潮文庫)は、月が絵描き相手に話をするという形で、33の短い物語が展開されている。その中の「第8話」に冒頭の一節が含まれてい…

2669 政権崩壊のシリア 地図を見ながら想像の旅

時々、地図を見ながら「想像の旅」をする。これが始まったのは、コロナ禍以来だから既に4年。旅の足跡は内外各地、かなりに達する。今、世界ではさまざまなニュースが相次いでいる。中でも昨今のホットニュースは、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が戒厳…

2668 黄金時間を送る12月 散歩して落ち着こう

「12月は人生の黄金時間」(『瑞穂の国うた』新潮文庫)と書いたのは、詩人の大岡信だ。今月は1年の締めくくりの月だから、私のように「毎日が日曜日」の生活を送っている者でも、世間の動きを見ていると何かと気忙しい思いになってしまう。そんな時には…

2667 ハワイは恩人 戦争を生き抜き3度の人生

83年前(1941年)の今日12月8日、日本軍はアメリカハワイの真珠湾(パールハーバー)を奇襲攻撃し、太平洋戦争に突入しました。私はこの時期になると、「人生が3度もあった」という一人の旧海軍兵士の体験記を読み返すのです。「リメンバー・パー…

2666 「言いたいこと」と「言わねばならぬこと」 義務の履行はどちらか?

「言いたいことを言うのは、権利の行使であるに反して、言わねばならないことを言うのは、義務の履行だ」。この言葉は、かつて軍部・戦争批判を続けたジャーナリスト・信濃毎日新聞(長野)主筆の桐生悠々(1873~1941)のエッセイ集『畜生道の地球』(中公…

2665 続発するクマ出没のニュース イソップ寓話の教訓

秋田市土崎のスーパーに入り込んだクマが、従業員の男性を襲った。そのまま店内に丸2日も居続け、ようやく箱のわなに入り、2日午後店外に運び出された騒ぎが起きた。市街地のスーパーでこんなことが起きることに驚きだが、地球温暖化がもたらすこうした事…

2664「紅葉燃ゆ寂」の世界 自然公園へサイクリング

暦の上では冬に入っているが、私の住む周辺ではまだ紅葉の季節が続いている。このブログでも何度か紅葉の写真を載せている。けさ、往復約1時間をかけて紅葉で知られる自然公園までサイクリングをしてきた。その自然の風景をあらためて掲載する。歳時記を見…

2663 「人の陰口は楽しい」? 『枕草子』とSNS時代

「人の悪口を言うのを怒る人は、訳が分からない。どうして言わずにいられようか」。これは、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス・social networking service)時代といれる現代のことではない。清少納言の『枕草子』第255段(「人の悪口はいけ…

2662 ひと際美しい紅葉 カワセミは神の化身か

どっどど どどうど どどうど どどう 青いくるみも吹きとばせ すっぱいかりんも吹きとばせ どっどど どどうど どどうど どどう 宮沢賢治『風の又三郎』(新潮文庫)の書き出しだ。9月1日、強い風の中やってきた転校生の話だから、「どっどど どどうど どど…

2661 大切な人への静かな思い 『今しかない』10号から(2)完

喜び、悲しむ、そんなことのために、 人間は生まれてきたものではないのです。 働く、そして、きょうはきのうより一歩前進する、 これが人生の目的、人間の生き方です。 ⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄ アメリカの詩人H・W・ロングフェロー(1807~1882)の『人生の…

2660 出会いと別れ……会いたい人たち 『今しかない』10号から(1)

「人生邂逅し、開眼し、瞑目す」。北海道函館出身の文芸評論家亀井勝一郎(1907~1966)が残した言葉(『愛と結婚の思索』大和書房)です。「人生は多くの出会いを通じて物事を知り、それまで見えていなかったものが見えるようになって、終わりの時を迎える…

2659 会津・奈良~時雨の中で 名仏に接した俳人たち

会津・勝常寺 「時雨」はこの季節特有の雨のことです。歳時記には「冬の初めに降る通り雨をいう。降る時間は短く、地域も限定されている。時雨という季語は京都で生まれ、京都の初冬の美意識として完成されたのだと見ることも可能である」(『角川俳句大歳時…

2658 武器・兵器量産時代への警告 老子(タオ)を読む

今から2500年前の中国春秋時代の思想家といわれる老子の言葉(道=タオ~生き方)は、現代でも通ずるものが少なくない。春秋時代は弱肉強食の戦乱の時代でもあった。全81章からなる老子の言葉には、当然「戦争」に関する考察も含まれている。ロシアの…

2657 「三文〇〇」横行の社会でも 立原道造と大谷翔平

「僕は三文詩人に」という詩を書いたのは立原道造(1914~1939)だ。「三文小説」「三文芝居」「三文文士」「三文判」など、低級で値打ちがないこと意味する「三文」を自分の詩作に当てはめ「三文詩人」という表現を思いついたのだろう。ただ、道造の詩は短…

2656 既存メディアに厳しい目 兵庫知事選とSNS

兵庫県の出直し知事選挙で、パワハラ疑惑などで失職した前知事の斎藤元彦氏が再選された。直前までは元尼崎市長の稲村和美氏がわずかにリードし、斉藤氏が追い上げていると新聞には報じられていたが、ふたを開けてみると、米国の大統領選で返り咲きが決まっ…

2655 石畳を踏んで放浪へ ダンテとカラヴァッジョの悲劇

けさはけさの落葉はじまる石畳 昨夜来の雨と風で街路樹のけやきの葉がかなり遊歩道の上に落ちている。秋が深まり、冬の到来を感じさせる風景だ。この句の舞台は長崎だ。かつての外人居留地があった大浦周辺に残る石畳に、落葉が積っていく姿を描いた長崎の医…

2654 世界覆う悲しみのがれき色 芥川~「紺は札幌色」

芥川龍之介の『夢』という短いエッセイの中に、「美しい紺色は札幌色」という表現がある。何ゆえに紺色と札幌が結び付いたのか説明はない。ただ、それぞれの都市に合う色があるかもしれない。それでは東京は何色なのだろう。私の住む街は? 戦火の渦中にある…

2653 蘇れ!首里城 石畳と朱色の「芭蕉布」の風景

沖縄那覇にある首里城正殿などが火災(2019年10月31日)になって5年が過ぎた。2026年秋の完成に向け、再建・復元工事が進んでいるという。家族が首里に住んだことがあって那覇を訪れる度に首里城周辺を散歩しただけに、あの火災は衝撃を受けた…

2652 秋色に輝くけやき 冬構えの詩(うた)

2階の部屋の窓の外 けやきの街路樹が見える四季折々の「色」に変化する大きな木々暦の上では初冬 現実の自然は晩秋 けやきの葉が黄や赤に色づき 陽光に輝き出した朝その下を小学生たちが 三々五々歩いている ⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄ 春 芽吹きの時夏 すっか…

2651 非難乗り越え三振の山築けるか 23歳佐々木の大リーグ挑戦

プロ野球で完全試合も達成した佐々木朗希投手について、所属するロッテがポスティングシステムで大リーグ(MLB)に移籍することを認めると発表し、プロ野球ファンの間で賛否の声が巻き起こっている。賛否と書いたが、メディアやネットでは佐々木を非難する意…

2650 現代美術とアート書評 朝日の横尾忠則の試みに違和感

「アート書評」という言葉を聞いて、普通の人は絵画や芸術関係の出版物に関する本の書評と思うだろう。ところが、それは違うのだ。イラストレーターで多彩な才能を発揮し続ける横尾忠則が朝日新聞の書評欄で「展開」している書評を朝日はこのように名付けた…

2649 どこへ行く郵便局 朔太郎の詩にある身近な存在が……

『郵便局の窓口で』という詩や散文詩『郵便局』を書いたのは、萩原朔太郎だ。かつての郵便局は詩のテーマになるほど人々にとって大事な存在だった。だが、メールが発達した現在、郵便局は苦境に立たされている。郵便料金もこの秋(10月1日)から大幅値上…