小径を行く 

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。(筆者=石井克則・遊歩)

2025-04-01から1ヶ月間の記事一覧

2753 文化の宝庫の図書館 ナチスの焚書事件の詩を読む

長田弘(1939~2015)の「ベルリンの本のない図書館」という詩は、ナチス時代のドイツのベルリンで起きた歴史的な焚書(ふんしょ)事件の現地を描いたものだ。ナチスを率いたヒトラーが自決したのは80年前の4月30日で、今日は「図書館の日」だそうだ。…

2752 昭和とはどんな時代だったのか ブラックユーモアの叙勲 

いつもの喫茶店に入った。顔見知りの先客がいた。毒舌氏と私がひそかに呼んでいる先輩のKさんで、コーヒーを飲みながら新聞を手にしている。Kさんは私に気が付くと手招きした。相席すると、いつもの長広舌を振るい始めた。私は注文したアメリカンを飲みなが…

2751「五風十雨」を使ってみたい ユリノキを見上げながら

「五風十雨」(ごふうじゅうう)という言葉がある。5日に1度風が吹き、10日に1度雨が降るという意味から転じて、天候が順調で農作物に都合がいいことを指す。さらに、世の中が平穏無事であることのたとえにも使うといわれるが、昨今はこの言葉を引用した記…

2750 名も知らぬ花の美しさ 「人生は希望」と小川未明

「名も知らない草に咲く、一茎の花は、無条件に美しいものである」。日本のアンデルセンといわれた児童文学者、小川未明(1882~1961)は、『名もなき草』というタイトルのエッセーで「美しいもの、いい音色、正しいものは無条件に理屈を超越して人間の感情…

2749 津田梅子の「親父の背中」 2人のパイオニア育てた開明人

私は「親父の背中」を見たことがない。私が生まれて間もなく父親は戦死したからだ。太平洋戦争末期のフィリピン戦線でのことで、今日が命日だ。父親がいないことに私は何の疑問もなく、母と祖母が父親代わりになってくれたこともあって、寂しいと思ったこと…

2748 山路を歩きながら キンランやフジとの対話

池の端に咲くヤマフジ 私の住む街の真中にかつての里山がそのまま自然公園として残っている。4月も下旬となり、このところ最高気温は25度を超える夏日も記録し、急に新緑が目に付くようになった。公園を歩くと、山野草や樹木が「よく来たね」とでも言うよ…

2747 米中関税戦争の行方 かつてはピンポン外交があった

陣馬高原にて トランプアメリカが世界を相手に仕掛けた「関税戦争」。中でも米中の争いは果てしないほどにまで至ってしまった。あきれるばかりのアメリカの政策は、世界中を巻き込んでいる。かつては世界をリードしたアメリカは、今や斜陽の国に陥ってしまっ…

2746 メヌエットの風景と蓬摘む2人 新緑萌える朝に

樹々の若葉の光り揺れだすメヌエット 音楽を俳句に取り入れた加藤千世子(1909~1986)の句だ。夫は人間探求派の俳人、加藤楸邨(しゅうそん)。散歩をしていて、樹々の若葉が萌えている風景を見ると、体が軽くなりスキップをしたくなるような思いがする。今…

2745 根室の行商も無駄ではなかった 津村節子と吉村昭のつらい思い出

前回に続き『北の話 選集』(北海道新聞社)の心に残ったエッセーをもとに書いてみたい。今では大作家となった夫妻の若い時代のストーリーだ。芥川賞作家、津村節子(1928~)の「思い出の根室」と言う話だ。津村の夫は同じ作家の吉村昭(1927~2006)だが、…

2744 人生の方針決める5歳 故郷と東京の異質性

「生まれてから5年がその人の人生の方針(生きる上での視点)を決める」と書いたのは、作家の池澤夏樹だ。1945年7月北海道帯広市で生まれた池澤は、この町で5年間を送った後東京に移った。5歳の目でも帯広と東京の風景の違いを覚えており、特に帯広…

2743 五輪が変えた東京の街並み 『春の小川』の風景

ウワミズザクラ ラジオ体操は第1と第2の間に首の運動がある。今朝は首の運動の際のピアノ伴奏曲として『春の小川』が演奏されていた。『故郷』で知られる高野辰之(作詞)と岡野貞一(作曲)コンビによる小学唱歌だ。この詩は東京代々木周辺の昔(明治末期…

2742 「桜切る馬鹿」論争 ソメイヨシノの寿命は?

「桜切る馬鹿梅切らぬ馬鹿」ということわざが昔からある。『故事ことわざ辞典』(東京堂出版)には「桜の枝は折るがよく、梅の枝は切るがよい」という説明が出ている。さらに『続故事ことわざ辞典』(同)には「桜折る馬鹿柿折らぬ馬鹿」(桜の枝を折ると枯…

2741 庭師から画家への転身 素朴派のアンドレ・ボーシャン

海棠の花が美しい ロシアに軍事侵攻されたウクライナ。政府は兵士の追加動員を進め、いつ動員されるのかと苦悩している若者が少なくないというニュースを見た。戦場では死と隣合わせになるのだからその苦悩は当然といえるだろう。部屋にあるカレンダーの4月…

2740 桜の木と人生 西行のように達観できるのか

美しい雲 仏には 桜の花を たてまつれ わが後(のち)の世を 人とぶらはば(仏となった私に桜の花を供えてほしい。私の後世をだれかが弔ってくれるならば) 辻邦生の名作『西行花伝』(新潮文庫)は、この歌で終わっている。西行の弟子藤原秋実(あきざね・…

2739 予祝と寂が交錯 桜の季節「さざめきの後で」

日本の春、一斉に桜が咲く季節。美しさ、華やかさに包まれ、心躍る人が多いのではないか。「予祝」(よしゅく)という言葉がある。辞書を引くと「あらかじめ祝うこと。前祝い」(広辞苑)とある。満開の桜の下で楽しむ「花見」も実は予祝だという。どんなこ…

2738 因縁の「硫黄島の星条旗」写真 国防総省サイト削除・復活

太平洋戦争の激戦地、硫黄島を石破首相が先月29日、アメリカのヘグセス国防長官とともに訪れ、日米合同の追悼式に出たことはニュースで見た。あの激戦から80年。この戦いで米軍の勝利を象徴したといわれる6人の兵士が米国旗・星条旗を摺鉢山山頂に掲げ…

2737 清らかで生き生きする季節 4月の朝の詩(うた)

桜と霧とビル 四月なのに手袋をする寒い朝歩いて数分の憩いの場所調整池に面して桜が咲いている辺りは霧が立ち込めている陽光に映える桜はすがすがしい見上げる私の顔に一枚の花びら 出がけに読んだ新聞米トランプ政権が相互関税発表の記事一面から社説まで…

2736『一身二生』の生き方 元新聞記者の豆腐屋奮闘記

イタリア生まれのオペラ作曲家、ジョアキーノ・ロッシーニ(1792~1868)は、37歳で引退した。この後の人生を、ロッシーニは何をして送ったのだろう。それは「食」である。ロッシーニは若くしての引退だが、定年後にスペインのバルセロナで豆腐屋を始めた…