小径を行く 

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。(筆者=石井克則・遊歩)

2024-06-01から1ヶ月間の記事一覧

2570 「たが」が外れた日本 ああ!官も民も

(ふと空を見上げると、梅雨なのにこんな風景が) 最近の世相を表す言葉は何ですかと聞かれたら、私は「たがが緩んだ日本」と答える。「たが」は漢字で「箍」と書き、桶や樽などの外側にはめて締める輪のことで、竹や金属でつくるのが一般的だ。見たことがな…

2569 故郷の蛍狩り 味わう『枕草子』の世界

(夜、この周辺で蛍を見ることができる) 「夏は、夜。月のころはさらなり。闇もなほ、蛍の多く飛び違ひたる。また、ただ一つ二つとなど、ほのかにうち光りて行くも、をかし。雨など降るも、をかし」(夏は夜ですね。月が出ていればさらに素敵です。闇夜に多…

2568 樹木との対話の日  喧騒と不安の世界でも……

「戦争の世紀」といわれた20世紀から21世紀となり、世界は平和になるかと思ったが、その期待は虚しかった。相変わらず世界は混沌としたままで、さらに気象変動による自然の脅威がますます強くなっている。そんな時、頁をめくった本の言葉が目に入った。…

2567 音楽は希望の使い シューベルトと千住真理子

シューベルトの歌曲『楽に寄す』(『音楽に寄せて』とも)は、名曲といわれている。作詞したのは友人で詩人のフランツ・フォン・ショーバーで、短い詩の中に「音楽」という言葉はない。だが、この歌を聴いていると、「音楽の力」を感じる。ヴァイオリニスト…

2566 悲しみの「特攻花」 特定外来種と天人菊の物語

「特攻花」という異名を持つ花が2つあることを新聞で知った。特攻は、太平洋戦争末期に日本軍が採用した「生還することを考えない体当たり攻撃」のことで、その部隊を「特攻隊」といい、主に航空機で搭乗隊員もろとも敵艦に体当たりする戦法だ。この無謀な…

2565 ひと際美しい「梅雨夕焼」 一日の終わりに……

私の住む関東地方が昨21日、平年より14日遅く梅雨に入った。6月は雨の季節なのだが、晴れる日が多かった今年は、これまでは違っていた。「梅雨」が付いた俳句の季語は20近くある。多くが夏の季語(秋も一部ある)だ。私はその中で「梅雨夕焼」が何と…

2564 「反省しない者はまた繰り返す」 裏金めぐる法の抜け穴

(最近目に付くカシワバアジサイ=柏葉紫陽花) 最近はAIという人間を超えるといわれる存在が注目を集めている。では、人間の記憶の容量はどの程度まであるのだろうと思うことが少なくない。その一つの例としてかつて読んだ本を読み返すと、ほとんど内容を覚…

2563 思い出蘇る新聞の切り抜き 想像するそれぞれの人生

(ことしも半夏生=はんげしょうが咲く季節になった)) 本棚の奥にあった昔買った本を取り出し、ぱらぱらと頁をめくっていたら、半分ほどの所に新聞の切り抜き記事が挟まっていた。「茶の間から」というタイトルが付いた短い囲み記事だ。「時の人」とは違う…

2562「飲酒と人生」 プラトンとロンドンの違い

古代ギリシアの哲学者プラトン(前427~前347)は、「男は40歳過ぎるまで(アルコールが“青春の喜び”をよみがえらせる効果を与えるときまで)、飲酒を許すべきではない」と語ったと伝えられている。その「思索的知性と厳格さの結合が偉大な芸術と文…

2561「人間は空」なのだ 別れの辛さ乗り越える言葉

ふだん話をしたことはない。会えば頭を下げる程度の関係でも毎朝いたはずの人がいないと、何となく寂しい思いがする。朝のラジオ体操。近所の広場で集まるのは30人前後。そのうちの顔ぶれが少しずつ減っている。人生は邂逅(巡り逢い)だ。そして別れも必…

2560 アジサイと太平洋 銚子は國木田独歩の故郷

「なつかしき 我が故郷は 何処(いづこ)や 彼処(かしこ)にわれは 山林の児(こ)なりき」 國木田独歩(1871~1908)の『山林に自由存す』という詩の一部だ。独歩の故郷は、千葉県銚子市だ。その銚子の海を見下ろす高台で、季節の花、アジサイが満開となっ…

2559 人を励ます「普段着のような言葉」 懐かしき詩の世界

世界でさまざまな花が咲いている。花を愛でる気持ちがあれば、争いは起きないはずだ。そんな思いで、散歩中に路傍の花を見ることが多い。詩人で童話作家、翻訳家の岸田衿子(1929~2011)の詩「花のかず」は人と花とのつながりを短い言葉で表している。多く…

2558 続『夏の思い出』を聴きながら 牧野富太郎と長蔵、尾崎咢堂の対立

先日、尾瀬を舞台にした『夏の思い出』の歌のことを書いた。すると、尾瀬に詳しい友人から、植物学者牧野富太郎(1862~1957)と、尾瀬を開拓し登山道を開いた平野長蔵(1870~1930)に関するちょっとした話を聞いた。植物学者としての牧野が自然破壊に加担…

2557 繰り返してはならない「風景」 想起する「風船爆弾」

(かつて風船爆弾を飛ばした上総一宮の現在の風景) その昔「風船爆弾」あったとさ 埼玉県 吉川てまり(10日付朝日川柳より)5月末から風船に関するニュースが話題になっている。北朝鮮からごみや動物の糞などの汚物が入った多数の風船が韓国に飛来、各地…

2556 漱石の嘆きが聞える 「いやな奴で埋まる世の中」

(黄色い百合の花) 夏目漱石の作品には、辛辣な文明批評ともいえる言葉が出てくる。そのうち「山路(やまみち)を登りながら、こう考えた」の書き出しでよく知られている『草枕』の中にも厳しい言葉がある。「世の中はしつこい、毒々しい、こせこせした、そ…

2555 西行~平治と裏金事件 「あこぎ」今昔物語

(咲き誇るアヤメの中を散歩する人たち) 「あこぎだなあ」。漢字で「阿漕」と書くこの言葉は、最近あまり使われることはないようだ。だが、昨年から続く政界の「裏金」事件、それに続く政治資金規正法改正の動きを見ていると、私はどうしてもこの言葉を使い…

2554 南海の孤島で兵士が共同生活 感動の小説と実話

(アメリカデイゴの花が咲いた。沖縄県の県花デイゴは別種だ) 児童文学作家で帝塚山学院大学学長だった庄野英二(1915~1993。弟は作家の庄野潤三)の作品に『長い航海』(角川書店)という長編小説がある。太平洋戦争中、南海の孤島に日米両軍の兵士たちが…

2553 歌は故郷への響き 深みと広がりがある『花』

「歌は心に呼応する故郷への響きであり、足音なのだ」。作詞家、山口洋子(1937~204)は『花』という短いエッセイ(『日本のうた300、やすらぎの世界』講談社+α文庫)の中で、こんなことを書いている。華やかな世界で生きた名古屋出身の山口にとっても…

2552 ヒトラーへの忠誠で出世も…… 栄光と転落の2人のヘス

第二次世界大戦下のアウシュヴィッツ強制収容所所長とその家族を描いた映画『関心領域』(アメリカ、イギリス、ポーランドの合作)が話題になっている。所長の名前はルドルフ・ヘス。ナチスドイツがヨーロッパで勢力を伸ばしていた時代、同名のもう一人の人…

2551 遥かな尾瀬の季節に 『夏の思い出』を聴きながら

一つの歌がきっかけになって全国に知られるようになった場所といえば、群馬県・尾瀬といっていいだろう。多くの人が口ずさむ『夏の思い出』という歌だ。私もかつて尾瀬に行き、水芭蕉を見たことを忘れることができない。現代はSNSで情報が伝わる時代だ。山梨…

2550 スペインのヒマワリ畑とゴヤの絵 梅雨とは無縁の明るい風景

6月になった。わが家にあるカレンダーのうち2枚は日本のイメージとはやや違い、明るい印象の写真と絵画になっている。1枚目は「スペインアンダルシア地方のヒマワリ畑」であり、もう1枚は同じスペインの画家、フランシスコ・デ・ゴヤ(1746~1828)の『…