小径を行く 

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。(筆者=石井克則・遊歩)

映画

1371 映画「あん」・社会の片隅で ハンセン病回復者の生き方

「あん」はハンセン病(末尾に注)回復者の生き方をテーマにした映画だ。主要な登場人物は3人である。どら焼き店をやっている訳ありの男(永瀬正敏)、そこに放課後に通うかぎっ子の女子中学生(内田伽羅•樹木希林の実の孫)、どら焼きのにおいに惹かれてや…

1370 映画『おかあさんの木』 忘れてはならない戦争の不条理

美しく咲いた桐の花 ことしは戦後70年。あの戦争は遠い存在になったのだろうか。決して、そうとはいえない。国会では集団的自衛権の限定的行使を容認する安保法制が審議中であり、政権は憲法学者が口をそろえて「違憲」だと断じたことに耳を貸そうとしない…

1346 過去と向き合う姿勢 「パリよ永遠に」とメルケル首相来日

ノートルダム大聖堂 来日したドイツのメルケル首相が講演で、第2次大戦中に関係が悪化した周辺国との和解には「過去と向き合うことが重要」との認識を示し、不倶戴天の敵だったドイツとフランスの関係が和解から友情に発展したのは「両国民が歩み寄ろうとし…

1340 帰還兵の悲劇の連鎖 映画『アメリカンスナイパー』

新聞の外信面に「『米軍伝説の狙撃手』を射殺 元海兵隊員に終身刑判決」(東京)という記事が出ていた。イラク戦争を題材にし、現在日本でも上映中の映画『アメリカンスナイパー』のモデルとなった、元海軍特殊部隊の射撃の名手ら2人を銃で射殺した元海兵隊員…

1313 蘇ったグレース・ケリー 映画「公妃の切り札」

国の面積が約197ヘクタールとヴァチカン市国に次いで世界で2番目に小さな国が地中海に面したモナコである。人口は3万6千人余とミニ国家だが、金持ちが住む国としても知られ、日本人では元サッカー選手の中田英寿やテニスのクルム伊達らも居住権を持っ…

1197 時代・歴史を考えるきっかけ 小説「ああ父よああ母よ」と映画「小さいおうち」

最近、加賀乙彦の小説「ああ父よああ母よ」(講談社)を読み、山田洋次監督の映画「小さいおうち」を見た。 小説は1927年に中国の旧満州の地主の4男として生まれた主人公を語り部として、日中戦争から中華人民共和国の誕生を経て共産党独裁という厳しい…

1194 かぐや姫の物語 モルッカ(インドネシア)にもあった竹取物語

アニメ映画「かぐや姫の物語」(高畑勲監督)は、日本最古の物語といわれる「竹取物語」を映像化したもので、美しい色彩が心に残る作品だ。 竹取物語は、作者も書かれた年代も不明だが、遅くとも平安時代初期の10世紀半ばまでには完成したといわれる。

1168 非情な天才と差別に耐えた大リーガー 伝記映画で知るやり返さない勇気

米国の伝記映画を見た。伝記映画というのは、実在した歴史上の人物の半生あるいは生涯を描いた作品だが、これまで制作された数多い伝記映画は完全な伝記や史実に基づいたものではなく、制作者によって創作や脚色されることが珍しくないそうだ。 それはさてお…

1134 人の生き方を問いかけるアニメ 宮崎駿監督の「風立ちぬ」

どんな世の中でも自分の仕事に打ち込む姿は悪くはない。政治や社会情勢に引きずられることなく、仕事ができれば幸せなことだ。宮崎駿監督のアニメ「風立ちぬ」を見て、そう思った。私たちも含め、多くの人は時代にほんろうされて生きている。このアニメの主…

1085 ソロモン諸島の地震と映画「ライフ・オブ・パイ」 危機を乗り越えるのに必要なことは

マグニチュード8・0という巨大地震が起きた南太平洋のソロモン諸島に、以前旅したことがある。直行便はなく、成田からグアム、ナウル経由で首都ホニアラに入った。 「ソロモン」という呼び方は、16世紀に初めて諸島のひとつ・ガダルカナル島に入ったスペ…

1078 老いることはこうも悲しい 「山田洋次監督の「東京家族」

老いるということは、こうも悲しいのだろうか。この映画を見て、そう思った。人は喜んで老いているわけではない。だが、だれもがいつしか老いていき、社会からも家族からも余計な存在として扱われてしまう。

1073 「正義と良心・生き方とは」を考える ミュージカル映画「レ・ミゼラブル」

ミュージカル映画はほとんど見ない。それでも「サウンド・オブ・ミュージック」(1965)や「王様と私」(1956)など、何本かの映画は心に焼き付いている。 この正月、退屈するだろうと思いながら、トム・フーバー監督の英国映画「レ・ミゼラブル」を…

1043 人間のつながり・悲しみ・不屈の闘志 映画・北のカナリアたち・黄色い星の子供たち・天地明察

最近、相次いで3本の映画を見た。邦画(「北のカナリアたち」「天地明察」)2本、洋画(「黄色い星の子供たち」)1本だ。 3年前、話題になった「告白」という湊かなえの小説は現代の「負」を強調した作品だった。その作者の短編集「往復書簡」の中の「2…

1007 山頭火と高倉健 映画「あなたへ」を見て思うさまざまな人生

「このみちや いくたりゆきし われはけふゆく」(注=筆者。この道は、多くの人々や人生が行き交っている。私はその人生をきょうも歩いている) 作者は放浪の俳人といわれ、無季自由律俳句(句の中に季語を入れない)で知られる種田山頭火である。歌人・若山…

991 祈りの地を目指して 歩き続ける人を描いた映画「星の旅人たち」

知人から「星の旅人たち」という映画を見てほしいというメールが届いた。「息子を亡くした初老の男のスペイン・サンチャゴ(サンティアゴ・デ・コンボステラ)への巡礼の旅(800キロ)を描いたヒューマンドラマです。昨秋、次男(33歳)の遺灰を持って…

961 社会現象を投影した2本の映画 「ハーメルン」と「わが母の記」

連休に入って2本の映画を見た。双方とも内容は社会派に属し、ともに映像が美しい心に残る作品だった。BSフジで放映された「ハーメルン」(プレカット=縮小版)と話題の「わが母の記」である。 前者は福島県奥会津の廃校を舞台に人口の一極集中化現象が進…

939 澄んだ目で見る戦争の恐怖 映画「戦火の馬」

私が小さいころ、わが家では馬を飼っていた。その背中に乗って、落ちないよう懸命にしがみついて坂道を下りたことを覚えている。スピルバーグ監督の映画「戦火の馬」を見て、昔を思い出した。主人公の少年が私の子ども時代と重なったからだ。 映画はマイケル…

910 映画「RAILWAYS」の世界 立山連峰に守られた富山の街

富山を何度か訪れたことがある。県庁所在地の富山市は、立山連峰に見守られているような印象が強い。剱岳、大日岳など連峰を形成する山々は美しく、富山の人々を包み込んでいる。厳しい冬があっても富山は住みやすいといわれる。だが、そこに住む人々はどん…

750 落胆するのも人生の糧 グレース・ケリーの名言

海外の映画女優で、印象に残るのはオードリー・ヘプバーン(ベルギー生まれのイギリス人)、グレース・ケリー(アメリカ)、イングリット・バーグマン(スウェーデン)の3人だ。いずれも、20世紀を代表するハリウッドの大女優である。にほんブログ村

742 フラガールの地にて 迫力に満ちた踊りに酔う

福島県いわき市のスパリゾートハワイアンズ(旧常磐ハワイアンセンター)に行ってきた。温泉に入り、この施設の名物であるフラダンスショーを見た。 洗練された踊り子たちの動きを見ながら、映画「フラガール」を思い出した。にほんブログ村 あらためて書く…

734 静かな時間を楽しむ 映画・マザーウォーター

映画を見る楽しみは何だろう。手に汗を握ったり、つい泣いてしまったり、何が何だか分からないまま終わってみたりと、これまでさまざまな映画を見た。 映画名の「マザーウォーター」は、ウイスキーの仕込み水(ウイスキーをつくる時に使用し、麦を発芽させる…

728 背景は「水戸っぽ」気質か 映画「桜田門外ノ変」

かつてこんな言葉が警視庁内でささやかれたそうだ。「鹿児島署長(警視)に茨城巡査」である。鹿児島県出身者は出世し、茨城県出身者はその逆で巡査のままで終わるという出身県による差別が最近まで伝統としてあったというのだ。映画「桜田門外ノ変」を見て…

698 小説・映画「悪人」 現代日本にはそれより悪い奴がいる

悪人の定義は「心の邪悪は人、悪事を働く人、悪者」とある。芥川賞作家、吉田修一の「悪人」の主人公は、たしかに悪事(殺人)を働いた人物だ。しかし、心は決して邪悪ではない。気が弱くて、自分の意見をはっきり主張できないごく普通の青年だ。 出会い系サ…

697 映画「トイレット」の世界 もたいまさこの目の演技

見る人に想像力を求める映画だ。「かもめ食堂」の荻上直子監督の新しい作品「トイレット」である。米国(撮影場所はカナダのトロント)の小さな町を舞台に主な出演者は、もたいまさこと3人の孫たちと一匹の猫である。 日本の映画だが、セリフはすべて英語で…

634 高齢化社会の現実を投影 映画「春との旅」

仲代達也と徳永えりの「春との旅」という映画を見て、高齢化社会の現実の厳しさを思った。近所でも高齢者の1人暮らしが増えている。この映画は、世界でも類例のない超高齢化社会が進行中の日本の話なのである。 元漁師の祖父・忠男(仲代)は学校給食の仕事…

627 3Dの世界を初体験  映画「アリス・イン・ワンダーランド」

いわゆる「3D」という立体画面の映画を初めて見た。今年になって「アバター」が日本でも上映され、3Dが流行語になった。この方式のテレビも最近発売になり、眼鏡をかけた立体映像の世界が急速に浸透しつつある。 眼鏡をかけて映画を見るというのは、肌に…

602 もう一度は? アカデミー賞の「ハート・ロッカー」

もう一度見たい映画や読んでみたいと思う小説がある。では、きょうアカデミー賞の作品賞を受賞したキャスリン・ビグロー監督の「ハート・ロッカー」(行きたくない場所、棺桶を指す)というアメリカ映画はどうか。 「ノー」である。それは、この映画自体がノ…

590 マンデラとラグビーの魅力 映画「インビクタス」

ラグビーといえば、ニュージーランドのオールブラックスを思い浮かべる。その強豪を破って、南アフリカが1995年、第3回ワールドカップの開催国として初優勝したことは、ラグビーファン以外にはあまり知られていない。 「インビクタスー負けざるものたち…

586 永遠の日々への手伝い 映画「おとうと」

山田洋次監督の映画「おとうと」を見た。吉永小百合と笑福亭鶴瓶が姉弟役を演じ、フラガールの蒼井優が吉永の娘役を演じる。「男はつらいよ」の「寅さん」を彷彿とさせる喜劇調の前半から、後半はがらりと変わって死がテーマになる。

547 フィクションとノンフィクションの境目は 沈まぬ太陽

フィクションとノンフィクションには、創作と事実という境界がある。しかし日航ジャンボ機が群馬県・御巣鷹山に墜落し、乗員乗客520人が亡くなった事故をモデルにした映画「沈まぬ太陽」は、フィクションとうたいながらもノンフィクションに近い。日航の…