小径を行く 

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。(筆者=石井克則・遊歩)

2852 猛暑に耐える2つの花 強い生命力詠う句

満開のサルスベリの花

 私の住む地域で樹木に咲いている花といえば、サルスベリとキョウチクトウだ。2つの花はこの猛暑に耐えて、咲き続けている。私たち人間はこの暑さに負けてしまう。ところが、自然界は違う。それが2つの花であり、その生命力の強さを詠った句もある。

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 散れば咲き散れば咲きして百日紅 花が散り、さらに花が咲く。そして散り、また咲く。永遠に続くようなサルスベリの花期の長さをこの句は見事に描いている。作者の千代女は加賀の千代女、または千代尼と呼ばれる江戸中期の俳人だ。加賀国(石川県)松任(白山市)の表具屋に生まれ、18歳の時金沢藩の足軽の家に嫁ぎ、一男を生んだが間もなく夫に死別、子どもも早世して松任に戻ったと伝えられるが、未婚だったという資料も多い。早熟で16、7歳頃から俳諧の才能が評判となったといわれる。50歳で剃髪しているそうだ。「朝顔に釣瓶(つるべ)とられてもらひ水」の句は有名。

 サルスベリは千代女の句のように、百日紅(ひゃくじつこう)」とも書く。江戸時代の本草学者、儒学者の貝原益軒の『花譜』の中に初めてこの表現が出てくるという。花期が長く、赤い花(白い花もある)であることから、こんな名前が付いたのだろう。郊外を歩くと、この花の大きな木が目に付く。空を突くような木に赤い花がついている。つい見とれるほどの美しい風景だ。

 ヒロシマの夾竹桃が咲きにけり 西嶋あさ子 キョウチクトウは公害に強い樹木として知られている。原爆という悪魔の兵器によって、人間だけでなくあらゆる生命が奪われた広島。だが、何年か過ぎ、キョウチクトウの花が咲いた。この植物の生命力の強さを少しでも分けてほしいと思った人は少なくないのではないだろうか。

 キョウチクトウは毒性が強いことでも知られている。街路樹や緑化樹として植えられ、夏の長い期間、赤や白い花を楽しむことができるが、根、葉、茎、花など樹木全体に毒性の強いオレアンドリンといった致死量の強いアルカロイドが含まれており、口にするのは危険だそうだ。強心や老化防止といった作用があるともいわれるが、医薬品として利用する方法は未開発だそうだ。

 朝の散歩。キョウチクトウとサルスベリの花が目に入る。暑さに負けそうな体と心。だが、2つの花は「しっかりしろ、何をやっている」と、私を叱咤激励する。「あなたは平和な日々を送っているのに、何をしょぼくれるのか、ウクライナ、ガザの人たちを思え」、そんな声を頭上の花たちが伝えているように思えてならない。

 

 

 

 

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