小径を行く 

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。(筆者=石井克則・遊歩)

2596 「我思う故に我あり」 株乱高下の時代に

niji
(虹の彼方に何がある?)

「過去最大の下げ幅~過去最大の上げ幅」。東京株式市場で日経平均株価が異常な、あるいは歴史的な乱高下が起きた。新聞、テレビ、ネットでは、この原因や今後の見通しに対するさまざまな声が紹介されている。株には全く無縁な者として、何が正しいのか全く分からない。そんな時株の取引で生涯を送った知人の言葉を頭に浮かべながら、ニュースを見ている。
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今回の東証での株の乱高下の原因については3つの要因があると言われている。「日銀の政策金利引き上げ決定」「アメリカをはじめとする海外景気の悪化懸念」「イスラエルの動きを中心とした中東での緊張状態などの地政学的影響」~で、多くの専門家は今後も乱高下が続くとみているという。経済のことは門外漢だが、市場での乱高下に深く関わっているのは、金儲けを何よりも優先するハゲタカファンドの存在だろう。



長年株取引を続けた知人はその極意を、私に難しい言い方で説明した。「フランスの哲学者、デカルト方法序説の中の一節『我思う故に我あり』のようなものだよ」。私流に解釈すると、「他人の考えよりも自分で考えたうえですべてを疑い、投資に対し慎重な姿勢を失わない」ということらしい。この考え方が、現在の投資の世界に通用するのかどうかは分からない。彼は「持ち株を10社程度に絞り、それ以上は広げないことがけがをしない秘訣だ」とも話していた。



政府は最近、新NISA少額投資非課税制度)を打ち出し、「貯蓄より投資を」と言い出した。しかし、こうした異常な乱高下の中で株の素人が手を出せば、元も子もなくなるのは自明といっていい。最近、証券会社の社員から勧められるままにそうした少額投資をしたという知人は、あっという間に元手で失い、このままでは危いと思い投資をやめたという。すると、証券会社の若手社員は「すみませんでした」一言だけ謝ったという。知人は「あなた方は、そんな一言で済むのだからいいですね」と社員に言葉を返したそうだ。



日経平均株価バブル経済時代の1989年末に3万8915円の最高値となり、90年以降に急落し、日本経済は失速した。バブル経済の崩壊だ。それから30数年を経て、ことし7月11日には4万2000円台をつけ、バブル以来の高値を記録した。だが、上述のような要因であっという間に4万円台を下回った。デカルト流の考えの知人は、残念なことに3年前に亡くなってしまったので、今回の乱高下騒ぎに関する感想を聞くことはできない。今日7日は、暦の上では立秋だ。残暑が厳しく、心地いい秋風はまだまだで、株式市場では突風が吹きまくっている。
 ※注 デカルトは「二元論」で知られる。以下は経済人類学者ジエィソン・ヒッケルの著書『資本主義の次に来る世界』(東洋経済新報社)でのデカルトについての指摘の要約。

 精神と物質は基本的に二分される。人間はすべての生物の中で唯一、神との特別なつながりの証である精神(あるいは魂)を持っている。一方、人間以外の生物は思考力のない物質にすぎない。植物や動物は、精神も主体性も、意志も動機も持たない。単なる自動機械で、予測可能な機械的法則によって時計のようにカチカチ動いているだけだ。デカルトは人間と生物を切り離した哲学者であり(イギリスの哲学者ベーコンの思想と重なり)、地球の大地から精神性を奪い、人間が搾取する「天然資源」の貯蔵庫に格下げした。




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