小径を行く 

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。(筆者=石井克則・遊歩)

2504 「大谷通訳解雇」で汚された朝 ラジオ体操仲間が引退

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 毎朝、近所の広場でラジオ体操をやっている。夏の多い日には40人近く、厳寒の冬でも20人前後が集まって来る。そのうちの一人は、散歩を兼ねて1丁目から会場の5丁目まで片道25分くらいかけて歩いて通ってきている。もちろん本名を知っているが、私は勝手に「1丁目さん」というあだ名を付けていた。その1丁目さんが昨21日、私たちに1枚の紙を渡した。それは彼の「ラジオ体操引退」の挨拶状だった。 
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「1丁目さん」ことIさんは、ほぼ毎日、ぎりぎりの時間に会場に姿を見せ、体操が終わると、自身のペースでゆっくり歩いて帰って行く。3月になって1週間ほど休んだ。姿を見せると「コロナになってしまって……」と話し、再び通い出すのかと思ったが、2、3日すると、また休み出した。「コロナがぶり返したのか」などと、私たちは心配した。Iさんは、昨日会場に姿を現し、いつも彼の近くで体操をやっている私たち数人に紙を渡したのだ。そこには以下のような挨拶が書かれていた。



 拝啓 私儀、本日をもって、緑内障による視力の悪化、椎間板ヘルニアによる腰痛等、体調不良のため、ラジオ体操をやめることにしました。初参加以来13有余年、毎日さわやかな朝を迎えることができたのは「各位とのラジオ体操のお陰」と感謝しております。ありがとうございました。厚くお礼申し上げます。
 最後になりましたが、各位の益々のご健勝を祈念しております。 早々



 これを読んで、私は「そうか1丁目さんは13年以上もここまで通ったのか」と、深い感懐を抱いた。私がこの場所でラジオ体操に初めて参加したのは、飼い犬が死んだ翌日の2013年7月31日だった。以来、雨や用事がある日を除いて毎日続けているので、あと数カ月で11年になる。Iさんは、私よりも数年先輩だった。Iさんはこのブログで、菜の花の写真を載せた北海道滝川の出身で私も札幌での生活体験があるため、北海道の話に盛り上がったこともある。Iさんの隣で体操をやっていた元高校球児のNさんも病で倒れ、最近は姿を見せない。人は誰でも老い、健康年齢を維持することは難しくなる。それは分かっていても、Iさんの「引退」は、やはり寂しい。



 ラジオ体操から帰ってから、朝食後テレビを見ていると、大リーグドジャース大谷翔平選手の水原一平通訳を解雇、という速報が流れた。スポーツ賭博で大谷選手の口座から450万ドル(日本円約6億8000万円)という巨額を賭博の胴元に送金したというのだ。嫌なニュースで、朝の爽やかさは一瞬にして吹き飛んだ。詳しい話は不明だが、私は賭博=ばくち(ギャンブル)と聞くと、人間をおかしくするものだという意識が消えない。



 定年退職後、退職金の大半をパチンコに注ぎ込み、蒸発した男の話、カジノにのめり込んで支局の経費、数千万円を使い込んで懲戒免職になった海外特派員の話、賭博絡みで起きた殺人事件、競輪、競馬、競艇で身を持ち崩した男が一家心中した話など、賭博・ばくちに関しては悲劇、犯罪といった「負のイメージ」しかない。大阪では万博の後、会場跡地に統合型リゾート構想が計画され、カジノが誘致されるという。

 ノンフィクション作家、沢木耕太郎の小説『波の音が消えるまで』(新潮社)は、マカオを舞台に、バカラというトランプを使ったカジノゲームに取りつかれた日本人青年が「バカラ必勝法」を追い求め、破滅にまで追いつめられる話だ。バカラ必勝法は妄想にすぎなかったというのが結論だが、バカラで文無しになったこの男は、恋する日本人女性に助けられる、という甘いストーリーになっている。ゆえに「凡作」と言わざるを得ないのだ。水原通訳も語ったと伝えられる「ギャンブル依存症」の人間が、カジノ絡みで増えることは間違いない。人間の心を蝕む賭博。水原事件はその警鐘といっていい。

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 写真 満開のスモモの花。桜よりも花弁は小さい。
 1331 貫く棒のごとき生き方 正月雑感
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