小径を行く 

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。(筆者=石井克則・遊歩)

2407 許されないガザの病院攻撃 ブリューゲル『死の勝利』の世界の恐怖

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 イスラム組織、ハマスが実効支配するパレスチナ・ガザ地区にあるアフリアラブ病院が17日夜、空爆を受け、患者ら500人以上が死亡したというニュースが流れた。ガザの保健当局はイスラエルの攻撃だと発表、イスラエルはハマスとは別のイスラム過激派「イスラム聖戦」が発射したロケット弾が誤って病院に被弾したとし、情報が錯綜、原因は分かっていない。立場の弱い民間人多数が犠牲になったことに、だれが責任をとるのだろう。この攻撃の現場の映像や写真を見ていると体が震え、よく知られているピカソの『ゲルニカ』の絵を想起した。 
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 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻でも様々な情報があふれ、偽情報と真実の情報の見分けが難しい。今回の病院への攻撃も同じ繰り返しで、様々な見方がある。真相はあとで明らかになるのだろうか。明らかになってほしいと思うのは無理な相談なのか。同情を呼ぶためのハマスのやり方だという専門家の見方もあるが、真相は歴史が証明するはずだ。スペインの首都マドリードのソフィア王妃芸術センターに展示されているゲルニカのことについてはこのブログで何度か書いている(下記参照)。同じスペインのプラド美術館(マドリード)には、ゲルニカよりかなり古い時代の戦争を描いた絵がある。『バベルの塔』で知られるオランダのピーテル・ブリューゲル(1525か1530~1569)の『死の勝利』(1562~1563ごろ)という絵だ。

『プラド美術館名作100選』(同美術館刊)によると、ブリューゲルは道徳教義的な作品を描いたが、この作品でははっきりと死者と生者を表現しているという。「この作品に描かれた死は、屍の馬にまたがり、大鎌で生者を刈り取っている。おびただしい数の骸骨軍団は棺桶でできた盾で武装しており、逃げ惑う生者たちを見張って巨大な棺桶に押し込めようとしている。はるか地平線まで続く背景には、焼け焦げむき出しとなった荒地で、処刑、絞首台、さらし首など、生者に対する容赦ない攻撃が繰り広げられている(以下略)

 この解説を読んだだけで、中世ヨーロッパの戦いの凄惨さが浮かび上がる。『怖い絵』(角川文庫)という本で、中野京子は「恐怖の源、それは何より『死』である。肉体の死ばかりだけでなく、精神の死ともいうべき『狂気』である。直接的な恐怖はほとんど全て、このふたつの死へと収斂されるといっていいだろう」と書いている。人がそれほど、死に対し恐怖を抱いていることは言うまでもない。今、パレスチナ・イスラエルで、ウクライナで人々が死の恐怖に怯える日々を送っている。

 イスラエルとパレスチナの紛争は、双方言い分があって解決は容易でない。しかし、互いに自己を正当化し続ける限り、争いは永遠にやまない。2000年に及ぶ憎悪と争いにピリオドを打つ処方箋はないのだろうか。それは双方が互譲し、互いを思いやる精神を持つことだ。そのためには計算高さや思惑は捨てる必要がある。平和が戻るには、双方の互譲の精神を国際世論が後押しできるかにかかっている。最低でも、双方がオスロ合意を尊重しなければならない。

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(ブリューゲルの『死の勝利』・『プラド美術館名作100選』より



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