小径を行く 

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。(筆者=石井克則・遊歩)

2639 後ろからゆつくり吹く秋の風 朝焼けの空に向かって

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 うしろよりゆつくりゆけと秋の風 昨日に続いて秋に関する俳句を紹介する。俳句にも前衛の世界があるようで、この句の作者、酒井弘司(1938~)は、このカテゴリーに属する俳人だという。何となく秋に何かを思うという雰囲気が伝わる、私の好きな句の一つだ。今朝も散歩をしながら、そんな風情を味わった。今日は旧暦二十四節気のうちの「霜降」(そうこう)だ。例年なら霜が初めて降る頃で、野菜を中心にした農作物には大敵の季節だ。ところが、昼は半袖でもいい9月の陽気だった。地球環境は、確実におかしくなっていることを実感する。

 

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朝焼けがあると天気は崩れる、と言われる。その通り、今朝は美しい朝焼けが見られ、夜から雨が降り出しそうだ。早朝6時近く。東の空が赤く染まり出した。スマホでその景色を何枚か撮影した。その私の後ろから、少しだけ風が吹いている。それは冒頭の句の通り「ゆつくり」だった。

酒井の句について、作家で俳人倉阪鬼一郎は『元気が出る俳句』(幻冬舎新書)で「秋になると、年(人生)の残りをふと考えて焦る気持ちもおのずと生まれてきますが、うしろから背中に吹く風は「ゆつくりゆけ」と諭してくれます。その声を耳にしたら、無駄に力が入っていた前傾姿勢が自然に改まってくるかもしれません」と、書いている。このところ友人・知人、元同僚の訃報が相次いでいる。それだけに人生の虚しさを感じ、元気を失いつつあった。だが、朝焼けの中を歩き、この句を読んで、気持ちの上でも背筋をピンと張ろうと思い直した。

武満徹が作詞・作曲した『小さな空』という歌がある。1960年代のラジオドラマの主題歌だったそうだ。友人で急性リンパ性白血病を克服した小野愛子さんが主宰している「横浜プレガンド音心(おんころ)骨髄ドナー登録推進企画チャリティコンサート」の7回目(~旅するように音楽を~がテーマで世界各国の名曲を歌った)の最後にも歌われた。10日ほど前に開かれたコンサートの動画を見ながら、私も幼い頃いたずらが過ぎて母に叱られて泣いた日のことを思い出した。だが、その思い出は「うしろから静かな風が吹き抜けていくような」心地良さがあった。それはコンサートに出演した小野さん(ソプラノ&ヴァイオリン)とその仲間たち(メゾソプラノ日比野智恵子さん、テノール富澤祥行さん、バリトン平尾弘之さん、ピアノ横山ち帆さん)のハーモニーがぴったりと合っていたからだ。

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 ☆『小さな空』

 

青空みたら 綿のような雲が
悲しみをのせて 飛んでいった
いたずらが過ぎて 叱られて泣いた
子どもの頃を憶いだした



夕空みたら 教会の窓の
ステンドグラスが 真赫に燃えてた
いたずらが過ぎて 叱られて泣いた
子どもの頃を憶いだした



夜空をみたら 小さな星が
涙のように 光っていた
いたずらが過ぎて 叱られて泣いた
子どもの頃を憶いだした



 2215 現代人を励ます名曲 横浜・イギリス館のミニ・コンサート



 2395 輝く音楽家たち 港が見える丘公園にて

 2422 それでも《あきらめることはない》 立冬の光の中で

 

 2095 遥かな空に描かれた文字は 武満徹『翼』を聴く