小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2056 郷愁誘う紫色の通草(あけび) 里山を駆け回った遠い日

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 秋の味覚はいろいろある。第一に挙げるとすれば新米か。これ以外にも枚挙に尽きない。「シイタケ、マイタケ、栗、アケビ、ユズ」。埼玉秩父産の5つの旬の食べ物が知人から届いた。写真で見ても、色が鮮やかで食欲がそそられる。食欲が増す季節になりつつある。なぜなのか……。それにしても、散歩をしていると、自然の姿が美しい季節であることに気づく。そう、もう秋なのだ。 

 アケビは、一般的に馴染みのない果物だ。だが、里山の麓で育った私にはアケビは山に行けばどこにでもあるありふれた果実だった。家から少しだけ歩くと雑木林があった。ここは子ども時代に駆け回った遊び場の一つだった。秋、垂れ下がっている蔦を探す。その先をたどると、一部が紫色の皮に包まれたアケビの実がなっていた。皮の一部がはがれている実を手に取り、白い中身を口にいれる。甘い味が口中に広がる。邪魔な黒い種は吐き出す。アケビは珍しくないし、それほどうまいと感じないのか、他の子どもたちはほとんど手に取ろうとしない。そんな果実だった。

『俳句歳時記』(角川学芸出版)で、アケビは春と秋の季語として出てくる。

 春 通草(あけび)の花=アケビ科の蔓性落葉低木の花。日本原産で4月ごろ新葉とともに淡紫色の花が咲く。

 先端は空にをどりて通草咲く 林徹

 秋 通草=山野に生えるアケビ科の蔓性落葉木本の実。約6センチの楕円形で、熟すると果皮が裂けて、黒い種子を含んだ白い果実が見える。果実は甘い。

 あけびの実軽しつぶてとして重し 金子兜太

 植物図鑑によると、日本に自生しているのは「アケビ、ミツバアケビ、ゴヨウアケビ」の3種類で、「アケビ」は、昔から自生している品種。果皮は紫色で長さは5~12センチほど。小葉の数は5枚で楕円形。「ミツバアケビ」は、果実が大きめで3つの品種の中では一番甘みが強い。小葉の数は3枚で少しギザギザしている。「ゴヨウアケビ」は、アケビとミツバアケビの交雑種といわれており、小葉が3枚または5枚。これからすると、私の家に届いたものはミツバアケビのようだ。

 アケビの季節。私の故郷の里山にはマツタケもあった。あった、と書いたのは私が実際に見たのはもらったもので、マツタケに詳しい隣家のおやじさんが自生している場所を秘密にしていて教えないから、だれもが知らない。私たち悪童がマツタケのありそうな赤松林付近を探していたら、おやじさんがやってきて私たちを追い払った。だから、その周辺にマツタケが自生していると思ったものの、おやじさんの怒った顔をみたら、恐ろしくてその後はマツタケ探しはやめてしまった。

 その代わり、アケビは取り放題だった。しかし、中学生になるとアケビへの関心も薄れ、里山に入ることもほとんどなくなり、いつしかアケビの味も忘れてしまった。そして、現在。故郷を離れて長い時間が過ぎた。散歩が日課の一つになっている。毎日同じコースでは飽きてしまうので、時々コースを変える。たまにだが、生垣にアケビがある家の前を通る。秋になると、小さなアケビの実が沢山なっているのを見かける。残念なことに、今年は不作のようでほとんど実がない。そんな時に知人から旬のものが届いた。そのうちの紫の実は、忘れかけていた甘い味とともに、幼いころの里山の風景を思い出させてくれたのだ。それは、まさしく郷愁という感情だった。

アケビの説明には手書きで「山アケビです。中の白い部分をお召し上がりください。皮は天ぷらや炒め物もできますが、ほろ苦いです」と書いてありました。送り主の埼玉県飯能市の斎藤八重子さんに感謝しながら、旬を味わいました。旬の食べ物は斎藤さんの縁戚関係にある埼玉県秩父市「キノコの里鈴加園」で生産されたものです。秩父は京都の祇園祭、岐阜の高山祭とともに日本三大曳山祭といわれる「秩父夜祭」で知られています。私も以前、12月に開かれるこの祭りを見物したことがあります)

 写真 手前の紫色の皮をした実がアケビ