小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2031 幻滅の大相撲 品性なき横綱とふがいなき力士たち

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 大相撲名古屋場所は、6場所連続して休場し進退をかけた場所といわれた横綱白鵬が15戦全勝で45回目の優勝を飾り、復活を果たした。この場所をテレビ観戦していた私は、現在の角界に幻滅を感じてしまった。同じ思いを抱く人は少なくないはずだ。その理由は2つある。

 千秋楽、14戦全勝同士で立ち会った白鵬大関照ノ富士戦。相撲は格闘技とはいえ、白鵬の戦い方に違和感を持った。ここまでして勝ちたいのか、と。見苦しささえ感じた。立ち会い、白鵬照ノ富士の前に左手をかざした後、顔を激しく張り(張り手)、続いて右手の肘で顎にエルボー(かちあげというらしい)をかました。にらみ合いの後、白鵬はさらに両手で張り手をやる。カッとなったと思われる照ノ富士も張り返すが、白鵬には通じない。こうなると白鵬の思うつぼだ。右四つに組むと小手投げで照ノ富士を土俵にはわせた。

 勝った白鵬は土俵上でものすごい形相で雄叫びを上げ、その後ガッツポーズをした。「見ごたえのある一番だった」などというスポーツライターもいるが、大横綱の取り口は品性がない。私はプロレスの試合を見ているようだと、錯覚してしまった。白鵬は14日目の大関正代戦でも土俵際まで下がって仕切るというルール破り(仕切り線でやる)をして批判を浴びていた。相撲解説者の北の富士さんは、これについて「あきれて物が言えんな」と話したそうだが、千秋楽の照ノ富士戦についても「ありとあらゆることをやっているからね。うーん。やっていることはえげつないんだけどね、勝負にかける執念…」と語り、後は続かなかった。それはこれまで見たことがない、衝撃の光景だったのかもしれない。

 優勝インタビューで「進退の意味がよく分からなかった」と語った白鵬。千秋楽に家族を呼び寄せたのだから、優勝に掛ける思いは過去の優勝以上に強かったのではないかと思われる。それにしても「勝つためには何でもやる」という姿勢見え見えの白鵬に諸手を挙げてよくやった、とはいえない。これが幻滅した理由の一つだ。

 次に、照ノ富士を除く力士たちのふがいなさが2つめの理由だ。照ノ富士は立派に違ない。膝の大けがや糖尿病で大関から序二段まで陥落したのを克服して大関に返り咲き、綱取りと言われた今場所も14勝1敗という成績を残し、横綱昇進を確実にしたのだから。しかし、3人の大関はふがいない。夜の街通いで6場所出場停止の朝乃山は幕下以下まで下がる。首を痛めて1勝だけで休場した貴景勝、千秋楽でようやく勝ち越した正代。何をやっているのかと言わざるを得ない。

 関脇以下も芳しくない成績だった。気を吐いたのは逸ノ城朝青龍の甥の豊昇龍、霧馬山、玉鷲白鵬照ノ富士を含めてみんなモンゴル出身の力士たちだった。白鵬を除いた彼らからは、ひた向きさを感じた。一生懸命にやっていることが伝わったからだ。このほか若手で目立ったのは、12勝3敗の琴ノ若だけだった。大けがを乗り越えて幕内に戻った宇良の活躍もうれしいが、客観的に見ると寂しい場所だった。

 両国国技館に何度か足を運んだことがある。これから強くなると思われた力士は、なぜか体全体が輝いて見えた。その後、その力士は間違いなく大関、あるいは横綱になった。そんなヒーローが角界に現れるだろうか。かつての大鵬千代の富士のようなヒーローが出なければ、角界の魅力はますます薄れるに違いない。

 追記

 ①大相撲の十両貴源治(24)が大麻を使用していたことが20日、明らかになった。大麻は使用だけでは罪に問われない。ただ相撲協会はこれまでも大麻使用に対し、厳しい処分を下しており、貴源治は解雇など重い処分が科されるだろう。貴源治の双子の兄は元十両貴ノ富士で、現在は格闘家のスダリオ剛。付け人に対する暴力行為などで2019年10月に力士を引退しており、兄弟そろっての不祥事になった。角界への幻滅度は増すばかりだ。(20日

 ②照ノ富士横綱昇進が決まった。21日の昇進伝達式で「不動心を心がけ、横綱の品格、力量の向上に努めます」という口上を述べた。「品格」は白鵬を意識した言葉のように思えてならない。ただ照ノ富士も勝負がついた後で、相手を土俵下に突き飛ばす相撲が何番かあった。相手がけがをすることもあり得るから、ダメ押しはやってはならない。(21日)