小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1996 月山で「幸」探し 残雪の絶景の中で

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 山形の友人が2年ぶりに月山を縦走した、と知らせてきた。残雪が美しい月山の数々の写真を見て、私はカール・プッセ(1872~1918)の「山のあなた」という詩を思い浮かべた。昨年から続くコロナ禍によって社会全体が打ち沈み、爽快感を味わうことが少ない。そんな中での北国からの便りは自然界の息吹を感じさせ、心洗われる時間を送ることができた。
 
 カール・プッセはヘルマン・ヘッセの詩才を見出したことでも知られる、新ロマン派に属するドイツの抒情詩人、作家だ。「山のあなた」は上田敏の『海潮音』(新潮文庫)に収められ、名訳として知られている、以下のような短い詩だ。

山のあなたの空遠く 「幸」住むと人のいふ。噫(ああ)、われひとと尋(と)めゆきて、涙さしぐみ、かへりきぬ。山のあなたになほ遠く「幸」住むと人のいふ。》
 
 山の向こうの遠い空の彼方には幸福があるはずだ、という詩は、いつの時代でも普遍性があって惹きつけられる。山の向こうには、本当に幸福があるのか、ないのか……。コロナ禍によってこの社会は、窮屈になっている。住みにくい時代と言っていい。山の向こうに行き、幸福を探したいと思う人は、少なくないのではないか。
 
 友人はスキーを使い、先日、山形県中央部の西川町志津温泉から庄内町月の沢温泉北月山荘までの月山頂上超え縦走を試み、月山からの眺めを楽しんだ。途中、アイスバーンもあったが、転倒せずに通過できたそうだから、スキーには慣れ親しんでいることが想像できる。メールには「夕焼けの絶景の中、スキーを走らせた」とあり、日本海に沈む夕陽の写真も添付されていた。「残雪の月山」できれいな空気を吸い、絶景をカメラに収めた友人は、「幸」に包み込まれているようだった。
 
 月山スキー縦走を終えた友人は、メールの終わりを以下のように書いている。「そろそろ日没。あと30分で閉鎖された公園ハウスに着きますが、そこまでなんとか見えているでしょう。そこでやっとお世話になったスキーを外して味噌パンを頬張りながら水分補給。もう午後7時すぎで、暗闇の中に天井を仰ぐと北斗七星が見えました。『この季節は北天井に見えるのか』なんて少し利口になって得した気分になりました。眼下には無人の北月山荘の非常灯が見えます。人間の住む気配の緑色に安堵している自分がいました。やっぱり里の灯りは安心感を与えてくれます」
 
 私が生れ育った家周辺は里山に囲まれていた。山とともに育ったと言っていい。だから友人がいまも月山とともに生きていることが、限りなくうらやましい。「日本人ほど山を崇(たっと)び山に親しんだ国民は、世界に類がない。国を肇(はじ)めた昔から山に縁があり、どの芸術の分野にも山を取り扱わなかったものはない。近年殊のほか登山が盛んになって、登山ブームなどと言われるが、それはただ一時におこった流行ではない。日本人の心の底にはいつも山があったのである」。深田久弥の『日本百名山』(新潮文庫)の後記には、こんなくだりがある。友人は文字通り、深田の言葉を実践しながら人生を送っていると言っていい。
 
 写真は、いずれも友人の板垣光昭氏が撮影。トップの写真は月山から見た夕陽です。残雪が朱色に輝いています。2枚目以降の説明は省きます。月山から見た鳥海山の美しい山容もあります。お楽しみください。↓
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