小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1334 野獣的行為と勝手な理屈  カッパドキアの地下都市を想起

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イスラム国」による湯川遥菜さんと後藤健二さん、ヨルダン軍のパイロットモアズ・カサスベ中尉の殺害のニュースに接して思ったのはトマス・モアとフランクリンの言葉だった。 トマス・モアは、英国・ロンドン生まれの15世紀から16世紀の法律家であり、思想家だ。ヘンリー8世の離婚問題などを批判したことから斬首刑になり、頭はロンドン橋にさらされた。『ユートピア』はイングランドの政治・社会を風刺し、赤道の南にあるという架空の国・ユートピア国の制度・習慣を描いた作品で、ユートピア国の戦争と戦闘について以下のように記している。   ≪戦争や戦闘は野獣的な行為として、そのくせそれを好んで用いる点にかけては人間にかなう野獣は一匹もいないのだが、彼ら(ユートピア人)は大いに嫌い呪っている。そして他の国々の習慣とはちがって、戦争で得られた名誉ほど不名誉なものはないと考えている。……自分の国を守るためか、友邦に侵入してきた敵軍を撃退するためか、圧政に苦しめられている友邦国民を武力に訴えてでも、その虐政の桎梏から解放してやるためか、そのいずれかでないかぎり戦争をするということはない。(『ユートピア』より)≫ 一方、フランクリンはアメリカの独立宣言の起草委員として知られる政治家であり、物理学者である。彼は人間の本性を「理性のある動物、人間とは、まことに都合のいいものである。したいと思うことなら、何にだって理由を見つけることも、理屈をつけることもできるのだから」(『フランクリン自伝』)と述べている。 日本人2人の首を切断し、ヨルダン人兵士を焼き殺すというやり方は、まさしく野獣的行為である。そして、物を考えることができるはずの人間が人を殺すことに勝手な理屈を見つけているといえる。そうした組織に、安倍首相の中東での言動が口実を与えてしまったといえる。それにしてもこの問題に日本政府がどう取り組んだのかよく分からないし、これからも危なっかしいと思う。 トルコの世界遺産カッパドキアに不思議な地下都市の跡が残っている。大小400もの大規模な地下都市は地下道で結ばれ、深い場所は150メートルにもなる。通気孔や井戸、共同炊事場もあって、6万人―10万人が暮らしていたと推定されている。 当初はローマ帝国の迫害に追われたキリスト教徒が作ったと考えられていた。最近出ているのは、シナイ半島アラビア半島とアフリカ大陸の間にある半島。東側はアカバ湾を隔ててアラビア半島と、西側はスエズ湾を隔ててアフリカ大陸と対峙する。現在はエジプト領)一帯に大戦争が勃発する予兆があり、人類史上初めて鉄を使いこなした民族といわれ、エジプトからバビロニア一帯を支配していたヒッタイトがこの戦火から逃れるため、大規模な地下都市を造ったのではないか(平川陽一著『ディープな世界遺産』)という説である。 かつて人類の一部がこのように地下都市に暮らさざるを得ない時代があったことは間違いない。「イスラム国」のニュースに接しながらこの地下都市のことを思い出し、そうした時代の再来があってはならないと考えた。
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