小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1297 hana物語(38) つぶやき16

画像

「ついに絵のモデルに hanaのつぶやき」

「一芸に秀でる者は多芸に通ずということわざがある。ある分野を極めた人は他の分野でも優れた才能を発揮することができるという意味だよ」。

旅行先から、大きな荷物を持って帰ってきた「お父」が、その荷物をほどきながら、こんなことを言っていました。ひもとビニールを外すと、写真のような絵が出てきました。私を描いたものだそうです。絵を見ながら「お父」は、こんなことわざを話してくれたのです。

その絵は「お父」の友だちが描いてくれたものです。ついに私も絵のモデルになったのですよ。絵を見て変な気持がして、ついワンとほえてしまいました。

6年前、4歳の私はようやく暑い夏が終わってのんびりと2階から外を見ていました。それを家族が後ろから撮影してくれたのです。その写真が「お父」の「小径を行く」というブログに掲載されたのです。

あのころ、私は元気いっぱいでした。あれからいろいろなことがありました。家族の中に女の子が増えたのは去年1月で、その後3月には大地震があって恐ろしいことが起きました。1年が過ぎて女の子はもう歩き出しています。遊びに来ると平気で私に触り、おもちゃみたいに扱います。最初のころは嫌でしたが、いまはもう慣れてしまって遊びに来てくれるのが楽しみになりました。

絵を描いてくれた、「お父」の友だちは中国に住んでいたことがあるそうです。中国では書道を習っていて、日本の文部科学省のような仕事をしている中国科学院が主催した書道展でも入選したそうですから、大変な腕前なのでしょう。家の床の間にも「王義之」という人の「蘭亭序」という作品を模して書いた友だちの掛け軸もあるそうです。(この辺は難しい話ですので、「お父」の言うことがよく分かりませんでした)

最近、「お父」は北京に行ってきました。帰ってきて「中国の書の名人は、絵の才能もあると聞いたけれど、なるほど、彼もそうだったのだなあ」と、感心したように友だちのことを話していました。友だちは、日本に帰国してから水彩画を習い始め「2月の印象」という題名で描いた水仙と鳩の絵が去年夏に開かれた「日美展」という大きな展覧会に入選したのです。書も絵も描けるのですから、その才能はうらやましくて、うちの「お父」とは違うなあと思います。

私たち犬族にも一芸に秀出る犬がいます。盲導犬災害救助犬、麻薬犬と人間の役に立っている仲間は少なくありません。それ比べたら私は無芸大食です。強いて言えば、とりえは「癒しの力」でしょうか。自画自賛と笑われるかもしれませんが、この家族と暮らしていて、そんな気がします。たぶん、多くの仲間もそんな役割を果たしていると思うのです。(2012・4)

「10歳です hanaのつぶやき」

私は今月(7月)の1日に10歳になりました。あの日のことはよく覚えています。家族のみんなが集まって、私のために誕生会をしてくれました。ケーキの格好をした豆腐に10本のろうそくを立てて、祝ってくれたのです。でも、私は早く豆腐ケーキを食べたくて、よだれが出そうでした。このケーキは私が一番好きなちーちゃんが焼いて作ってくれたのです。

あのころは涼しかったのですが、急に暑くなりましたね。きょうは、「お父」とママと一緒に外房の海に行ってきました。海に入ったのは久しぶりで、興奮しました。

私は、ゴールデンレトリーバーという種類なので、本当は泳ぎが大好きなのです。そして海水はほてった体には気持ちよかったのです。でも、外房の海はけっこう波があって、「お父」と一緒に海に入っても、波にさらわれてしまうのではないかと心配になり、浜辺にいるママの方を向いてしまうのです。

ママは私の名前を呼んで「楽しみなさい」と言うのですが、それがこちらに戻ってと言っているようで、「お父」を引っ張るようにして海から上がってしまいました。そんなことを何度も繰り返しました。海の空気を吸うと、なぜか元気になります。「お父」は「日に焼けてしまった」と、何度も言っていましたが、ふだんから色が黒いので、私からみたらそんなに目立たないのにとおかしくなりました。

海から家に帰る途中、車のなかで半分眠りながら「お父」とママの話を聞いていたら、私と同じ犬のことが話題になっていました。ママが買って読んでいる「暮らしの手帖」という雑誌に聖路加国際病院の細谷亮太という小児科の先生が「犬との暮らし」という文章を2回続けて書いているというのです。

「お父」は、最近北海道の滝川という街の郊外にできた難病の子どもたちのキャンプ場に行ったそうです。このキャンプ場は、ホスピスで暮らしている難病の子どもたちを招待して、北海道の雄大な自然をたんのうしてもらい、病気との闘いから離れて、生きる喜びを味わってほしいと、細谷先生たちがいろいろな方面に呼び掛けてようやく完成した施設だそうです。

その細谷先生の文章は、「お父」の心に残るものだったそうです。だから、「お父」はこんなことを話していました。

 「暮らしの手帖、58と59に2回に分けて細谷先生が書いた『犬との暮らし』は、子どものころから現在までの先生と犬とのかかわりを振り返っているんだね。犬への優しさと愛情が伝わるいい文章だと感心したよ。だから、細谷先生は小さい体で難病と闘う子どもたちのために全力を尽くしてキャンプ場まで作ってしまったのだよ。すごい人だね」

 

私は10歳を過ぎてから、体の衰えを感じる時があります。でも、いつも大事にしてくれている家族と暮らす日々は、とても幸せです。このごろは暑さが体に応えますが、来年のケーキを楽しみに、夏を乗り切りたいと思います。(2012・7)