小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1296 hana物語(37) つぶやき15

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「楽しいことや悲しいこと hanaのつぶやき」

私は、この夏で9歳になったハナです。もう9回の夏を過ごしてしまいました。それにしてもことしはいろいろなことがありました。楽しいこと、つらいこと、悲しいことが重なりました。長い間一緒にいて、あんなにつらそうな家族の顔を見たのは初めてでした。

楽しいことは、私の一番大事なみーちゃんが、1月に女の赤ちゃんを産んだことです。産んだ後、ミニチュアダックスフンドのノンちゃんと、4カ月も一緒に過ごすことができました。私は犬族にはあまり関心がないのですが、ノンちゃんはいつも私にまとわりついてくるので、いつの間にか妹のような感じを持ちました。

つらかったのは大きな地震の時のことです。あの日、家族はみんな出かけていて、家にいたのはみーちゃんと赤ちゃん、それに私とノンちゃんでした。みーちゃんは赤ちゃんを抱え、あちこちに電話を掛け続けていました。でも、ほとんどつながらなかったみたいで、その夜は人間2人と私とノンちゃんで眠れない時間を送りました。

余震が続いて、みんな眠るどころではなかったのです。あの夜の、みーちゃんのつらそうな顔を今も忘れることができません。

悲しいこともありました。散歩の途中に見かける仲間が姿を消してしまったのです。ラブラドールレトリーバーのシオンさんは、病気と闘い、一時は奇跡的に持ち直したのですが、地震の後に亡くなったと聞きました。体調を壊して、歩くのがやっとという状態でしたのに、一番好きなお姉さんが産んだ赤ちゃんに対抗意識を燃やして、普通に歩けるようになったのです。

でも、それは命が燃え尽きる前の、輝きだったのかもしれません。

そして、暑い夏がやってきました。「お父」は「人生で一番暑く、長く、つらく、悲しい夏だ」と言っています。私にはよく分かりませんが、たしかに暑い夏でした。原子力発電所の事故という、とても大変な事故が地震の後に起き、それが原因で電気がいつもの夏のようには使えなくなったというのです。

毛皮にくるまれた私には、夏の毎日は地獄のようなものです。エアコンが必要ない秋が待ち遠しいと思い続けながら、ハアハアと息をしていました。

でも、がまんが出来ます。みーちゃんと赤ちゃん、ノンちゃんが自分の家に戻った後は、私がこの家の中心になっているからです。家族3人は私に夢中なのです。特に、自分が機嫌のいい時にはちやほやして、そうではないときは相手にしてくれない「お父」が、最近はけっこう優しいのです。

明日で8月が終わります。最近、吹く風が体にやさしく感じられるようになりました。あの地震から、半年が近づいているそうです。まだ、たくさんの人たちが、家に戻ることができず、不自由な生活を続けていると、「お父」は言います。「何とかしてほしい」と、私も思います。

 最近、ますます食欲が湧いています。私の元気を被災地のみなさんに分けてあげたいのですが…。(2011・8)

「子どもは例外 hanaのつぶやき」

去年の8月以降、私の独り言が聞かれないので、どうしたのかという問い合わせが相次いでいる(?)そうです。大丈夫ですよ、元気ですから。顔の毛は白い色が増え、若い時のように、道を歩いていて「かわいい」と声をかけられることは少なくなりましたが、自分では若いつもりですよ。でも9歳半ですから、やはりおばあちゃんなのでしょうか……。

私は人間が大好きです。散歩の時も、犬よりも人間の方に目が行ってしまいます。おいでといわれると、自然に尻尾が動いて、その人に寄って行きます。時々会うおばさんがいますが、この人だけは苦手です。このおばさんは私を見つけると、遠くから「ハナちゃーん」と呼びます。近づくと「おいで、おいで」をするのですが、私はなぜか、この人だけは苦手で逃げてしまうのです。本能的に好きなタイプではないと思うのかもしれません。

だって、いつも「お父」に「この犬は甘えん坊の種類なんだってね」と言うのですよ。確かにそうなのですが、何度も同じことを言わなくてもいいのにと、思ってしまうのです。

最近、朝の散歩で「お父」は不機嫌な顔をすることが少なくありません。私が自由な行動をしようと、リードを引っ張るからではありません。実は散歩コースの遊歩道に私たち犬属の糞が目立つからだそうです。私たちと出会うほとんどの飼い主は、糞を始末する袋を持っています。私たちは朝6時台に散歩をしていますので、かなり早い時間に散歩をさせる飼い主が、犬の糞を放置して素知らぬ顔で歩いているのだと思います。

もちろん遊歩道には、飼い主に糞の始末を呼び掛ける標識がありますが、不心得な人は何回でも繰り返すのでしょう。そんな人はどんなペットの飼い方をしているのかと、「お父」はつぶやいています。

家には、時々みーちゃんが赤ちゃんを連れて遊びに来ますが、私はこの赤ちゃんが苦手です。1歳を過ぎたばかりで、「はいはい」しながら、好奇心の塊みたいに家の中を物色しています。そして、私にも平気で触ります。

私は人間が大好きと書きましたが、実は子どもは例外です。私から見たら、子どもは「怪獣」みたいなのです。赤ちゃんは自分の家にいるミニチュアダックスフンドのノンちゃんと同じように私を見ているのでしょうか。ノンちゃんは、赤ちゃんに優しく、しつこく触られても怒りませんが、私はだめなのです。

けっこう我慢をしているのですが、赤ちゃんに触られると、落ち着かなくなってしまい、けさも「ワン!」と一声吠えて、赤ちゃんを泣かせてしまいました。ちょっと、かわいそうかとも思いましたが、少しは私の威厳のあるところを見せておいた方がいいと思ったのです。これから赤ちゃんはどんどん成長し、私よりも大きくなるでしょう。そうしたら、仲良くしてもいいかなと考えています。

この冬はいつもより寒いと家族は話しています。私は寒いのは平気なのですが、けさも一緒に散歩をしたノンちゃんは寒そうでしたね。そういえば、1月には家族全員が風邪をひいていました。車に乗せてもらう機会も少なくて、さびしい思いをしました。

もう少しで、あの地震の日から1年になりますね。東北地方の被災地では、私たちと同じペット類も大変な思いをしたそうです。飼い主と別れたペットは数え切れないと、「お父」は話していました。大地が大きく揺れ、津波に襲われ、原発事故で放射性物質という怖いモノが大量に降り注いだ地域に住んでいた仲間は、かわいそうです。飼い主と早く再会し、幸せに生きてほしいと思います。

最近、私は寝ていることが多くなりました。時々、夢を見ます。家族みんなと散歩をしている夢です。私は楽しくて、尻尾を振り続けています。(2012・2)