小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1295 hana物語(36) つぶやき14

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「老犬でも想像妊娠 私の日記から」

人間の世界では「想像妊娠」という言葉がある。実際には妊娠していないのに、妊娠したのと同じような兆候が現れる現象だ。それが犬の場合にも発生することがあることを、わが家のhanaが証明した。8歳半の老犬の範疇に入りつつある犬でも、こうした現象が起きることに生命の不可思議さを感じた。

昨晩のことだ。次女がhanaの体をさわっているうち、乳の周辺の毛が黄色くなっていることに気付いた。犬には「乳腺腫病」という乳腺にしこりができる病気がある。心配になった私と妻はきょう雪の中を、いつもの「おじいちゃん先生」がやっている動物病院にhanaを連れて行った。

病院の待合室で、hanaは体を私にぴったり寄せながらガタガタと震えている。嫌いな診察台(高さ約1メートル)に乗せられることを怖がっているからだ。順番が回ってきて待合室から隣の診察室に入るのも一苦労だった。

座り込んで嫌がるのを抱きかかえるが、28キロ近い体重なのだからそう簡単ではない。ようやく診察室に入れ、彼女の嫌いな診察台に無理に抱きかかえて乗せ、診察を受けた。

触診の結果、乳腺腫病の疑いはほぼないという。最近の環境をおじいちゃん先生に話す。さちが子どもを産んで、退院後わが家で生活し、飼っていた犬(ミニュチュアダックスフント)もやってきて、一緒に暮らしていることなどである。

話を聞いたおじいちゃん先生は「ホルモンのバランスが崩れ、母乳が出たのでしょう」と説明してくれた。これまでの生活環境の変化が母乳を出すという現象につながったのだろうか。

一緒にわが家に現れた2つの生命は、hanaにとっては子どもか妹(孫は女、犬は雌)のような存在であり、母性本能が目覚めたのかもしれない。それは想像妊娠と同じような現象で、専門的には「偽妊娠」というらしい。

 子どもを産んで休養中の長女はhanaにとって大事な人なので、ひょっとしたら幸の出産がhanaの体に影響を与えたのかもしれない。(2011・2)

「雌犬2匹のおしゃべり 私の日記から」

わが家にたまにミニチュアダックスフンドが飼い主の幸さんたちとともに遊びに来る。名前は通称、ノンちゃん。数カ月わが家で暮らしたこともあってhanaとも仲がいい。しかし、このところの猛烈な暑さで2匹ともぐったりとしている。

 

散歩のときには、ぴょんぴょん跳ねるノンちゃんが特に元気がない。そんな2匹に言葉があったら、どんな話をしているのだろうか。あるいは、こんなことかもしれない。以下は私が想像する2匹の雌犬の対話。(hanaはH、ノンちゃんはNで表記)

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H ノンちゃん、元気がないね。この暑さじゃ、仕方がないね。でも私よりの若いあなたの方が参っているなんて……

N ええ。急に暑くなって、私、体がだるくて、だるくて。どうしたらいいの。

H そうね。私もあと少しで9歳になるけれど、毎年、夏のつらさは増しているの。もともと、私はあまり水を飲まないので、余計につらくて…。その分、「お父」は散歩の時間を短くしてくれたので、少しは楽だけど。

N 私、本当はハナさんと散歩するのが大好きなの。池の周りにくると、「お父」がリードを外してくれて自由に歩き回ることできるので、楽しいの。でも、それよりも、暑くて、たまんないなあ。

H 「お父」がぶつぶつ言っているのを覚えているよ。地球の温暖化が進んでいて、日本の気候がかなり変わっているんだって。それに、ことしは日本では大変なことがあって、電気が心配なんだそうよ。

N 分かった。私の家のみーちゃんと赤ちゃんがこの家で寝ないままで私たちと一晩送ったあの日のことに関係しているんでしょう。

H ノンちゃん、すごい。その通り。私、あの日のことは忘れることができないの。すごい地震だったよね。ノンちゃんも私もガタガタ震えたよね。家の中にいて、あんなに揺れたのは初めてだった。私、雷が大嫌いで震えるの。でも、地震これまでは大丈夫だったの。でも、あの地震は怖かった。ノンちゃんも震えていたね。

N はい。あれから、何だか人間は不機嫌な顔をしているね。

H そうなの。これも「お父」の独り言なのだけど、地震のあと、大きな津波があって東北地方ではひどい被害が出たそうなの。それに福島というきれいな県にある原子力発電所が事故を起こして、放射腺というとても危険な物質が外に漏れて大騒ぎになっているそうよ。まだこの発電所の事故は完全に解決していないので、おおぜいの福島の人たちが遠くに避難しているそうよ。電気も足りないって、大騒ぎをしているね。

N そうだったの。それで、みーちゃんたちは暑くてもエアコンを使わないで我慢していたんだ。

H きょう、「お父」がすだれを取りつけていたね。あれで少しは涼しくなるのかな。ほら、そこにゴーヤがあるでしょ。

けっこうツルが伸びて日差しを遮ることができるらしいよ。

N ふーん。人間って、不思議な動物だね。すごく頭がいいと思っていたけど、案外そうでもないこともあるんだ。

H そうね。いろんなものを発明して便利な世の中になっているのに、途中でけんかをしたり事故が起きたりで、便利な世の中だったはずなのに、自分たちが発明したものに振り回されているのだから本当に不思議な動物だと思うよ。それよりもノンちゃん、どうしたらこの暑さを乗り越えることができるか、考えようよ。このうちの玄関は涼しいよ。うちにきたら、ここで過ごそうよ。それにしても、お腹がすいたなあ。ノンちゃんはどう?

N うーん。気持ちが悪くて、食べたくないなあ……

H よーし。今夜のノンちゃんの分は、この私が食べてあげるよ。

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2匹が対話をしているころ、庭では紫陽花と百合の花が美しさを競っている。この季節を代表する草花であり、眺めていると、大震災で落ち込んでいた心が次第になごんでくるのを感じる。花も動物も人間の営みには欠かせない、伴侶のようなものなのだと思う。(2011・6)

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