小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1288 hana物語(29) つぶやき7

画像「ああ!いい季節だ hanaのつぶやき(hana6歳)」 

12月になって、私の体調はすこぶる(こんな表現は古いでしょうか)順調なのです。暑い夏に比べたら、いまは極楽です。私が一番多く時間を送っているのは居間なのですが、この一角にあるストーブからは暖かい風が流れてきています。そんな部屋にいると、すぐに眠くなって、ソファーに上がって横になってしまうのです。

けさも、暗いうちに起こされました。毎朝の散歩なのですが、眠いので、ついサボろうとさえ思うのです。「お父」がテレビで見ていてつぶやいていましたが、きょうの日の出は6時半ということでした。だから、散歩の出発時間はまだ暗いのです。

それからしばらくして、太陽が出てきます。けさは散歩コースにある調整池には霧が立ち込めていました。その背後にある雑木林は見事な紅葉に染まっています。きょうは体調がいいのですが、つい先日大失敗をしてしまいました。

だれもいない家で留守番をしているときに、家の中を探検しました。

居間と台所の間にはアコーデオンカーテンがあり、閉まっていましたが、鼻の頭を使ってちょっと押してみたら開くではありませんか。それでつい台所に入ってしまいました。いつもここに入ろうとすると「ノー」ときつく言われますので、興味があっても我慢していました。

でも、だれもいないので、入り込むと私の大好物のサツマイモがあったのです。つい袋から足を使って取り出し、食べてみましたが、あまりおいしくはありません。生だったのです。これまで時々もらっていたのは、ふかしたり焼いたりしたもので、甘くて、やわらかくてとてもおいしいものでした。それと比べると、おいしさは10分の1くらいなのですが、食べ始めたらとまりません。つい2本を食べてしまいました。

帰ってきたママが驚いたのは言うまでもありません。でも、ママは怒りませんでした。一番厳しいはずの「お父」もママの話を聞いて、笑っていました。家族で私を一番かわいがってくれるちーちゃんが体を心配してくれました。生のサツマイモを食べて、下痢をするのではないかと思ったらしいのです。

案の定でした。翌日朝の散歩で私の排泄物を見て、「お父」は飛び上がり、家に戻るとみんなに報告しました。「おーい、ハナの○○○は、すごいぞ。大量だ」と。私は恥ずかしくなり、その日は一日、小さくなってソファーで丸くなって寝たふりをしていました。

一日たって、私の体調は普通になり、安心した「お父」はふだんより少し遠くまで散歩に連れて行ってくれました。そこは銀杏並木があり、朝の太陽に黄色い葉が反射し、まぶしいくらい輝いていました。遠くには富士山が見えます。

こんな日は体も引き締まって、帰り道は張り切ってしまい、「お父」を引っ張るように急ぎ足になるのです。

この家の家族は時々風邪を引きます。「お父」とちーちゃんも最近寝込みました。私といえば、風邪とは縁がありません。それよりもいつもお腹がすいた状態なので、つい台所に入り込みたくなるのです。でも、それも当分は無理なようです。(2008・12)

「2月の天気が変 hanaのつぶやき」 

夕べの嵐で、私は寝不足です。ものすごい風が雨戸を鳴らすし、湿気が高くて体が火照ってたまりませんでした。そして、きょうの暑さです。普通、2月の14日といえば1年で一番番寒いころだといわれています。

でも、「お父」が家族に話しているのを聞いたところでは、2月の観測史上最高で静岡市で26・8度になり、神奈川や千葉でも25度以上の「夏日」になったのだそうです。昼過ぎ、私が部屋の中ではあはあと息をしているのを見た「お父」が庭に連れ出してくれましたが、外も日差しが強くて、のどが渇きました。

ことしになって、私は留守番の寂しさを何度か味わいました。普段はママが家にいてくれるので、のんびりできるのですが、1月と今月に入って2回、ママが長めの旅行をしたので、昼間は私だけが家に残されたのです。

私は寝るのが好きなので、だれかが家にいるときは安心して眠りに就きます。でもだれもいないと、落ち着くことができず、浅い眠りしかできないのです。依存心が強いのかもしれませんが、それが性格なので仕方がありません。ママだけでなく「お父」も時々旅行をするようで、余計に寂しくなってしまうのです。

 私は6歳半になりました。人間で言えば40数歳というところでしょうか。一生の半分程度を生きたことになります。最近「お父」は家族に「ハナは言葉が分かるみたいだな」と話していました。そして、朝の散歩の時にはけっこう難しいことを話しかけます。けさもこんなことを言っていました。

「おい、hana。最近の世の中はちょっとギスギスしすぎているぞ。きのうの朝、山手線から降りている時のことだ。大きなかばんを持った若い男が、近くにいた私を思い切り押して、ホームから階段を駆け降りたのだよ。その男は電車の中でも私にかばんをぶっつけ、こちらがよけようとして男のかばんを少しだけ押してしまったのだ。それが気にいらずに、電車を降りてからわざともう一度押してきたようだ」

「あの若者は、職場でどんな仕事をしているのかと、つい考えてしまったよ。電車のマナーといえば、最近満員電車の中で立ちながら本を読む人が目立つようになった。読書家なのだろうが、窮屈な電車の中で他人の迷惑を考えず自分の世界に入る神経が理解できないのだよ。携帯もそうだがね」

こんなことを家族に話すと「すぐに顔に出すから、相手に嫌がらせを受けるんだよ」と反撃されるので、「お父」は私に打ち明けるのだと思います。私は争うことが嫌いなので、人間の世界には「ギスギスする」などという言葉が何であるのかなあと考えるのです。犬の中には闘うために生まれてきた種類もいますが、私は闘うよりも大好きな人間と仲良くするのが一番幸福です。ですから、寂しい時やうれしくてしようがない時くらいしか吼えないようにしているのです。

きょう、庭でパンジーの花を見ながらのんびりしていたら、急に「お父」の姿が見えなくなりました。どこかに出かけてしまうのかと思い、寂しくなって何度か吼えてみました。すると、家の中から「お父」が庭に出てきて、私の頭を何度かなでてくれながら「お前は本当に寂しがりやなんあだなあ」と言って笑っていました。休日なのに、留守番をするのは嫌だと思ったのですが、それから「お父」がドライブに連れて行ってくれたので、暑くても大満足の一日になりました。(2009・2)