小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1287 hana物語(28) つぶやき6

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「この季節は散歩もいや 私の日記から」 

このところ、hanaは散歩を嫌がる。朝も夕方も散歩に連れ出そうとすると、横になって寝たふりをするのである。この暑さに参り、エアコンの効いた部屋の方が楽だと、動物的勘が働くのだろうか。

仕方なく、リードを引っ張り、無理やり散歩に連れ出す。途中までは、帰りたがって、座り込んだりする。その力は強く、私がいない夕方の散歩に家族はかなり難渋するらしい。私は、座り込んだときには「ストレート、ゴー」と低い声で言う。ハナの目はもちろん見ない。すると、彼女はすうーと立って、すたすたと歩き出す。

ことしの夏は猛烈な暑さが続いている。人間の私たちが参っているのだから、毛皮を着た犬族にはそれ以上の厳しい毎日なのだと思われる。しかも、ゴールデンレトリーバーは毛が長い。昨年は、サマーカットと称して、その長い毛を切ったので、比較的涼しく夏を送ったようだ。

家族は、昨年のカットしたhanaの姿を覚えていて「不格好だから、ことしはやめよう」と言い出した。そのために、この夏のハナは文字通り厚い毛皮姿で毎日を送っている。夜中にはあはあという苦しげな息づかいを聞くと、大丈夫かと心配になる。そんな日々が続いているのだ。

地球の温暖化現象は、私たち人類の生活に由来して起きたことは間違いない。しかし、いま地球上では、先進国と途上国の国民はあまりにも異なる生活を送り、途上国には地球温暖化へ配慮する余裕はない。

とすれば、繁栄を享受した先進国側が途上国を巻き込んで、その対策を講じなければならない。それができなければ、温暖化はますます進行すると懸念する。

 

それにしても、動物は鋭い勘があると思う。hanaは涼しいところで寝場所を確保して、一日のほとんどを眠りに向けている。それが、彼女の仕事なのだろう。(2007・8)

「犬が散歩をいやがる理由 私の日記から(hana5歳)」 

いま(2008年3月)犬と飼い主の心の通い合いを描いた映画「犬と私の10の約束」が上映されている。

映画や原作の本によると、犬を飼うに当たって10の戒め・注意があるという。そのやってはならない戒めの一つを私は破ってしまい、しばらくの間、犬の顔を見るのがつらかった。

私が破った約束は「私が言うことをきかないときは理由があります」という点だ。最近、わが家の飼い犬のhanaが、なぜか散歩を嫌がる。

家を出て小と大の排せつをする。すると、いつも散歩に出る裏門を目指して歩き出し、あげくは座り込んで言うことをきかない。朝夕とも10日まえほどから、こうした状態を続ける。

まだ5歳なので、老け込む年ではない。なのに、歩くことを嫌がるのだ。毎朝6時に起きて、散歩をする私は、時にhanaが座り込むと、リードを力一杯に引っ張り、「ゴー、ストレート」と声を掛け、無理に歩かせたりした。

 

それでも歩こうとしないときには、リードを外して、自分だけがどんどん先に行く。するとhanaは仕方なく、とことこと後ろについてくるのだ。

先日の朝もそんな繰り返しだった。そしてリードを外しても歩こうとせず、道端の草むらに顔を突っ込んだままの状態が続き、つい私はhanaの尻をたたいてしまった。

家に帰ってから、上の娘に「もう明日からはhanaの散歩はやめた」と宣言した。それを聞いた娘は涙を流しながら、私を責める。「何か理由があるのに」と。そう、言うことを聞かないのは、何か理由があるはずなのだ。

実は一番hanaを大事にしていて、いつも夕方の散歩を担当している妻が10日ほど前に階段から足を踏み外して左足の指を骨折し、散歩ができなくなった。hanaが散歩を嫌がる理由はこれが原因の一つと思った。

だが、念のために娘と妻が連れて行った獣医医院で「左足の股関節がよくない」と診断された。獣医師は「CTを撮るほどではないが、ゆっくりとした散歩とダイエットが必要」と説明した。さらにもう一つ「この子は賢くて、人の顔色を見ているみたいですね。ちょっと、ずるいなー」と笑いながら付け加えたという。

この犬種は、頭はいいが股関節を痛めるという弱点がある。hanaもそのDNAを受け継いだのだろうか。夜、酒を飲んで帰った私を迎えた彼女は私の手をなめながら、なにやら「グウグウ」と言い続ける。「お父、散歩の時も優しくしてください」と言っているように私は受けとめた。

映画の中で、けなげな「ソックス」という役を演じた犬はわが家の飼い犬と同じゴールデンレトリーバーで、しかも「ソックス」とhanaはうりふたつといってもいいほどよく似ている。犬を飼わない人から見れば、犬なんてみんな同じ顔だろうと思うかもしれないが、犬でも顔つきはさまざまなのだ。映画の犬は10歳で年老い、死んでいく。短命が犬という種類の宿命なのだ。何年か後には、hanaとの別れも覚悟しなければならない。「10の戒め」をあらためて読み返し、そう思った。(2008・3)