小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1240 どこに行く微笑みの国 タイ・だれが賢いのか

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タクシン派(赤シャツ)と反タクシン派(黄シャツ)が対立して混乱が続いているタイで、国軍がクーデターを起こし、プラユット陸軍司令官が首相代行になることを宣言し、インラック前首相らタクシン(元首相でインラック氏の兄、国外で亡命生活中)派の人々の身柄を拘束したという。微笑みの国といわれるタイだが、その微笑みはどこかに行ってしまった。 米国16代大統領、エイブラハム・リンカーンの言葉をかみしめている。「人間性は変わるものではありません。わが国将来の一大試練の時にも、今この試練にあっている人々と比べてまったく同じように、弱い者強い者があり、また愚かな者賢い者、悪い者善いものがいることでしょう」(リンカーン演説集より)。混沌としたタイ情勢はリンカーンの言葉と符合しているようだ。 米国の歴代大統領の中で、教科書で習ったのは初代のジョージ・ワシントンンと16代のリンカーンだ。リンカーンは奴隷を解放し、米国の歴代大統領中、最も偉大な大統領といわれるが、1864年4月14日夜、観劇中に狙撃され、翌朝に亡くなった。それから99年後の1963年11月22日、35代のジョン・F・ケネディが暗殺された日のことは覚えている人が多いだろう。テキサス州ダラスでパレード中に銃撃されるシーンがテレビで中継されたからだ。2人の大統領は、愚かな者に暗殺されたといっていい。 タイの政治情勢を見ていて、これまでだれが弱くだれが強いのか分からなかった。愚かな者や賢い者、悪い者、善い者も見当がつかない。クーデター後を見れば国軍は間違いなく強い者だ。愚者・賢者、悪人・善人のどれに当てはまるのかは現段階では何とも言えない。しかし基本的に武力を背景に混乱を収めようとする姿勢は受け入れることができない。 バンコクに次ぐタイ第2の都市、チェンマイに住んで10年になる友人は軍の介入をどのように思っているのだろう。メールで連絡を取ってみると、概略次のような答えが返ってきた。 「2006年にも軍によって戒厳令、クーデターがあった。今度の軍の介入は前回通りの展開で、個人的には現状ではやむを得ないかなと思って眺めている。市内最大のショッピングセンターのワロロット市場は武装兵士の姿もなく、チェンマイの街に緊迫感は感じられない。昨日までは統制されていたテレビ映像も本日(24日)午前から、すべての外国チャンネル、国内チャンネルが受信できるようになり、私たちは普通に食べ、笑い、生活している。夜10時以後の外出が禁止されているためセブンイレブンも含めて店は早仕舞いをしているようだ。今後は、暫定政権(軍)が政治改革の枠組みを進め、タクシン派を排除した文民政権に権限を委譲するという展開が予想されるが、その時期は常識的に3~6ヵ月ぐらい先だろう」 繰り返すが、タイは微笑みの国といわれる。争い事を好まない国民性だそうだ。だが、今の国内の状況を見ていると、そうした見方に疑問符がついてしまう。弱くても賢く、そして善人が見直される時代になっている。 写真 風にそよぐススキ