小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1232 死語でなかった「奴隷」という言葉  ナイジェリアの女子生徒誘拐事件に思う

画像ナイジェリアといえば、奴隷海岸を思い浮かべる。13世紀にポルトガルによってラゴスが建設され、奴隷貿易の拠点となり、その後17世紀から19世紀にかけてヨーロッパの貿易商たちはアフリカの人々をアメリカ大陸に奴隷として送り続け、ナイジェリアの海岸一帯は「奴隷海岸」といわれた。そんな歴史を持つナイジェリアで起きたイスラム過激派による多数の女子生徒誘拐事件は、パキスタンのマララさんの事件と符合するものだ。 マララさんのことについては、1月8日のこのブログで取り上げている。治安が悪化しているパキスタンの山岳部・スワードの学校で授業中に乱入してきたイスラム過激派タリバンのメンバーによって銃撃され重体となったマララさんは、医師たちの適切な手術、治療によって奇跡的に回復し、国連で教育の機会均等を訴えるスピーチをして、その名前は全世界に広まった。 しかし、女子教育を否定する考え方を持つタリバンと同じような過激組織はナイジェリアにも存在した。それが今回、ナイジェリア北東部ボルノ州の学校から200人以上の女子生徒が拉致された事件(発生は現地4月14日、276人が武装集団に拉致され、脱出した一部生徒を除き、223人が行方不明)で犯行声明を出した「ボコ・ハラム」で、国内で爆弾テロや拉致事件を頻繁に起こしているという。 今回の事件後に出てきた声明では「生徒を奴隷にして売り飛ばす。西洋式の教育を終わらせ、少女は学校を去って結婚しろ」と主張している。既に一部は隣国のチャドなどの人身売買市場で、1人1200円で花嫁として売買されているという報道もある。ボコ・ハラムの指導者は「誘拐した娘たちは売り飛ばす。人身売買の市場があり、アラーが私に売れと言っている」などと話しているという。 この事件から2日後の4月16日、韓国では大型旅客船「セウォル(世越)」が珍島沖で沈没、6日現在で修学旅行中の高校生ら236人が死亡、39人が行方不明になるという大惨事が起きている。船長以下乗組員が乗客を置いて、救出されるという言語道断な行動など、耳を疑う事象が事故に絡んで次々に明るみに出ているが、ここでも次代を担う若い人たちが犠牲になってしまった。 ナイジェリアの事件では、国際社会からの懸念の声が出ているが、解決はできるのだろうか。事件発生の4月14日に更新された外務省の海外安全ホームページには間に合わなかったのか、きょう現在、この事件のことは載っていない。しかし「テロ・誘拐情勢」の項目があり、ボコ・ハラムについて「2002年頃にボルノ州で結成されたと言われ、ボコ・ハラムとはハウサ語で、西洋の教育は罪という意味で、西洋文化や民主主義を否定し、ナイジェリア北東部を拠点にテロ活動を展開しています」などと書かれている。さらにこのグループによる大規模はテロ事件が多発しているとして、旅行者に警戒を呼びかけている。 それにしても、「奴隷」という言葉がまだ死語になっていないことに驚きと、怒りを感じる。米国のオバマ大統領が事件解決のためにナイジェリア政府への支援を表明したが、犯人グループは簡単には話し合いに応じないだろうから、交渉は難航するだろう。だが、不屈の精神力と国際社会の支援で教育を受ける権利を取り戻したマララさんの例もあり、希望は残っているはずだ。 写真 学校が大好きというラオスの山岳地帯の子どもたち(記事とは関係ありません) 16歳少女の不屈の魂