小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1195 マー君の契約にため息 重圧との戦いも

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無芸大食(最近は小食の方か)の身には、全く別の世界の話のように思ったのは、マー君こと楽天田中将大投手の大リーグヤンキースへの移籍の話だ。ポスティングシステムで移籍が決まったマー君は、年俸総額1億5500万ドル(日本円で161億5000万円)で7年契約を結んだという。IT長者も驚く巨額である。これぞ「アメリカンドリーム」ということなのだろうが、驚きと同時にため息が出てしまった。 2007年に西武からボストン・レッドソックスに移籍した松坂大輔投手(現在はフリー状態)の移籍が決まった時(2006年11月)に書いたブログを思い出し、読んでみた。 《ポスティングシステム(入札制度)という人身売買のような制度で大リーグ移籍を目指した西武の松坂大輔投手(26)を落札したのは、ボストン・レッドソックスで、落札額は破格ともいうべき5111万1111ドル11セント(約60億円)だった。スター選手はファンに夢を与える。だから高額の契約金を受け取ることには、反対しない。しかし、今回の動きを見ていて、釈然としないのだ。 貧乏人の妬みというわけではない。西武はレッドソックスから巨額を受け取るわけで、エースを失っても損得勘定からすれば損をしないと判断したのだろう。だが、待てよといいたい。26歳といえば、一般社会では駆け出しにすぎない。一芸に秀でているからといって、一選手を対象にこのようなマネーゲームのようなことをするシステムはおかしい。 いま、日本経済はバブル崩壊からようやく回復した。だが、その背景には多くの国民の犠牲が伴った。多くの企業は社員を少なくして、派遣社員契約社員という「安上がり」政策を維持している。そして、若者は安い賃金で日夜苦労をしている。こういう時代、若い親たちは、子供たちが有名大学を卒業し、官庁や一流企業へ就職することを望んで、学習塾へと通わせる。さらに、もう一方ではサッカー選手や野球選手となり、大金を稼ぐ道を選んでほしいと子供の尻をたたく。 現代はアメリカをはじめ「偏った時代」だと痛感する。「格差社会」という言葉もある。松坂の移籍をめぐる大金騒動は、この社会を象徴する出来事だと思うのだ。》 (松坂の場合、西武には譲渡金として当時のレートで60億円が支払われ、松坂自身は6年総額で52億円という破格の条件で契約した。しかし、松坂が10勝以上したのは1年目と2年目だけで、6年目は1勝しかできず、レッドソックスにとっては、高い買い物だったといえるだろう) ポスティングシステムが今回改定され、日本の球団に支払われる譲渡金の上限が2000万ドルになった。その代わりに選手個人への契約総額が高騰するのではないかという見方があったが、田中のケースを見るとその予想が的中したといっていい。大リーグに移った田中の動向は、これまで以上に注目を集めるに違いない。 ヤンキースがあるニューヨークの市民からは「ばかげた(金額の)契約だ」や「田中は161億円の価値があるかどうか証明しなければなれない」という声もある。一方、日本では昨年のような活躍を期待するフォンも多いだろう。そうした重圧との戦いにも耐えなければならない。それは大リーグ挑戦を決めた田中の宿命でもある。それにしても、ばかげた金額というニューヨーク市民の感覚は正しいと思う。 写真は愛知県、犬山城からの眺め。後方に御嶽が見える。(記事とは関係ありません)