小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1182 たった一枚の写真でも すがすがしさとおぞましさ

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たった一枚でも写真の力は大きい―。そんなことを考えながら、日本橋三越で開催中の2013年報道写真展(東京写真記者協会主催)のグランプリ作品「見せましょう!日本の底力を」を見た。一方、同じ写真でも北朝鮮が国営メディアを通じて公表したNO2・張成沢氏が政治局拡大会議場から拘束される姿、裁判所で手縄付きで拘束される姿の2枚は、独裁国家プロパガンダ写真であり、おぞましい思いで見た。 グランプリを獲得した写真読売新聞東京本社の繁田統央記者が撮影した。繁田記者は7月22日午前9時すぎJR南浦和駅ホームで、女性客がホームと電車の間に挟まれた現場に居合わせた。現場では「人がはさまれています」という構内アナウンスで電車の外に出た約40人の乗客たちが駅員と協力、電車を押して車体を傾向かせ、女性を救出した。小学生に写真の撮り方を教える出前授業に向かう途中だったという繁田記者は、現場の光景をミラーレス一眼カメラとスマートフォンで撮影したが、スマホの写真が夕刊に載り、さらに海外のメディアにも転電され、大きな反響を呼んだ。 報道写真展では繁田記者の写真のほか、ことし7月世界遺産に指定された富士山を1月1日に撮影した「富士山御来光」の大きな写真が目に焼き付いた。地元の静岡新聞の作品で「オレンジ色に輝く太陽が雲の間から昇りだす。富士山の斜面には雪煙が舞い上がっていた」と説明があり、日本の象徴である富士山の神々しいばかりの美しさをとらえている。 東京写真記者協会が1995年に刊行した協会50年の歩みともいうべき記録集「撮り続けて50年」によると、報道写真は「写真という視覚的情報でニュースを追う」もので、写真記者たちは「将来を見通すことが非常に困難な時代に報道写真のプロとして視点を誤らず、迫力ある映像で読ませるニュース写真を撮り続けている」という。報道写真は極めて重要な歴史の記録であることは言うまでもない。今回展示された250点以外でも膨大な記録が各メディアによって保管され、後世の人たちに2013年の歴史を伝える役割を担う。 張成沢氏の写真について北朝鮮の国民は、どんな感想を持ったのだろうか。北朝鮮のNO2として権勢を振るっていた張氏は金正恩第一書記の義理のおじでもあった。にもかかわらず、金第一書記の意向によって粛清・処刑されてしまった。こんな国が21世紀の現在もこの地球上に存在するのである。そして、その姿を撮影した写真を見せしめとして公表したが、国民に与えた効果は抜群だったのかもしれない。 すがすがしい思いで見ることができた繁田記者の写真とは比較できないが、張成沢氏の連行写真は北朝鮮という国のいまの姿を想像するのに役立った。それだけに国際社会にあっては、マイナス効果の方が大きかったといえるだろう。  写真 報道写真展のパンフレット 報道写真展は12月24日まで。