小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1151 hana物語 あるゴールデンレトリーバー11年の生涯(17)問題行動のわけは?

画像
hanaの散歩コースだった調整池周辺の遊歩道は、早朝だとだれにも出会わないときも少なくなかった。排泄が終わり、それを拾ってからリードを外して首輪だけにしてやると、hanaは喜んで走り出す。いい運動になるのだが、ちょっと目を離すと遊歩道からそれて、すり鉢状になった池の方へと入り込んでいき、雑草の中を駆け回る。それだけならいいのだが、始末が悪いことにその周辺には別の犬たちの排泄物がかなりある。そして、hanaは問題行動を起こしたのだ。 私たち飼い主にとっては問題行動なのだろうが、hanaを含めた犬たちには実は自然な行動らしい。私とかなり離れた場所まで入り込んだhanaは、その付近のにおいをかぎ続け、次に体を反転させ、つまり寝転がって、体に何かをつけている。私は大声で呼び続けるが、hanaは聞こえないふりをしているのか、夢中になっているのか、結構長い時間その行為をやっている。しばらくして私の怒声に気付いたhanaが戻ってくる。すると、体から猛烈な異臭がし、全身に黒っぽい糞が大量に付着している。 家に帰り、一部始終を家族に話すと長女に激しく怒られた。以前にも同じ行動をとり、全身を丁寧に洗ってもなかなか異臭は消えなかったというのだ。その日も長女がhanaを洗い始めたが、終わるまで1時間近くかかってしまった。それ以来、リードを外すことはやめようと思ったのだが、ついこの事件を忘れてしまって、何度か同じ過ちを繰り返した。 この行動は、獲物を狙う際に自分の体臭では気が付かれることを警戒し、他の犬の糞や生物の死骸などを身体にこすり付け、体臭を消そうとする犬の本能だそうだ。それがDNAとして残っていたということなのだ。 新興住宅地のわが家周辺には、散歩を楽しむ遊歩道がかなり多く整備されている。調整池周囲の遊歩道もその一つであり、朝夕には犬を散歩させる人たちの姿が少なくない。しかし、だれも見ていないと排泄物を持ち帰らない不心得の飼い主もいるようで、遊歩道には犬の糞が残っていることも珍しくはない。hanaが問題行動を起こした際に付着したそれも、飼い主が放してやらせた残存物だったようだ。 スペインの首都マドリードに近いブルネテという人口1万人の町では、面白い犬の糞対策をとっていると報道された。この町は通りに放置された犬の糞が目立つため、町中に不心得な飼い主摘発のボランティア20人を配置した。犬の糞を放置した飼い主を発見すると、そのボランティアが何気なく声をかける。会話の中で犬の名前を聞き出し、後で町が管理するデータベースを基に飼い主を割り出し、飼い主あてに持ち帰った糞を送りつけるというのだ。いやなことだと思うが、ことし2月の糞の配達は147件になり、街中に放置された犬の糞はこの対策を始める前に比べると、70%も減少したというから、効果は大きいようだ。日本でブルネテのようなことをやったらどんな騒ぎになるのだろう。 犬を飼っていた私でも遊歩道に放置された糞は気になり、何カ所かでそれを見た朝は気分が悪くなった。だから犬を飼っていない人たちからすれば、不快そのものだったに違いない。一部の地域では糞の持ち帰りだけでなく尿についても、ペットボトルの水をかける飼い主が増えているそうだが、私の住む街ではそこまでやる飼い主はあまり見かけない。 だれでも、きれいな街が好きだ。その街がきれいかどうかは、そこに住む人たちの文化のレベルを示すものだと思う。遊歩道の美化のために10年以上もゴミ拾いを続けている人がいる。この人の存在を知れば犬の糞を放置することなど、絶対にできないはずだ。(続く)
画像