小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1078 老いることはこうも悲しい 「山田洋次監督の「東京家族」

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老いるということは、こうも悲しいのだろうか。この映画を見て、そう思った。人は喜んで老いているわけではない。だが、だれもがいつしか老いていき、社会からも家族からも余計な存在として扱われてしまう。 一人暮らしを選択した主人公(橋爪功)のラストシーンを見て「遠い親戚より近くの他人」という言葉を思い出した。その訳は、映画を見ていただければ分かるだろう。 最後の画面に「この映画を小津安二郎監督に捧げます」とあったように、この映画は名匠といわれた小津監督の「東京物語」をモチーフにしたものだ。あらすじは少しだけ変えてある。東京物語では原節子演じる薄幸の女性が、この作品では蒼井優という次男(妻夫木聡)の心優しい恋人役になっている。 元は一つの家族であっても、子どもは成長し新しい家族を作り巣立っていく。そして、家族が大事となる。日本は核家族化社会といわれて久しい。この映画は、高齢化社会の現代で老人がどのように生きていけばいいのかを考えさせられる作品といっていい。 東京で暮らす人たちは一生懸命に生きている。しかし、年老いた両親がやってきたときくらいは、忙しさを忘れて優しく接してほしいと思う。山田監督からの、こんなメッセージが伝わってくる。 映画でそれを実践したのは、3人きょうだいの中で一番出来が悪いといわれていた次男であり、その恋人だった。橋爪は瀬戸内の島で妻(吉行和子)の葬式の後も残っていてくれた次男の恋人に感謝の気持ちを込めて、妻が愛用していた時計を贈るのだった。 ラストシーン。だれもいない1人の家で足の爪を切る橋爪がいる。いつかはだれもがこんな時を迎えるのだろうか。たまたま今夜は、家族が北欧に旅しているため、犬のhanaと1人と1匹だ。映画の中の橋爪も広い家で犬と暮らしている。いま、日本にはこんな人たちが少なくない。