小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1025 トルコの小さな物語(8) 音楽家には鬼門のフランクフルト 税関に芸術は通じない時代なのか

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海外を旅したことは、そう多くはない。テロ、ハイジャック、密輸防止のためとは分かっているが、空港での検査はやはり不愉快だ。スリランカコロンボ空港(正式名称・バンダラナイケ国際空港)では、税関職員を装った(あるいは税関職員かもしれない)男に財布の中から5万円を抜き取られてしまった。ドイツのフランクフルト国際空港の手荷物検査では、ショルダーバッグの中身をばらまかれた。そのフランクフルトはいま、音楽家には鬼門の空港になりつつある。 ことし8月中旬、ベルギー在住の日本人バイオリニスト・堀米ゆず子さん(54)がフランクフルト国際空港に手荷物扱いで持ち込んだ時価1億円といわれるバイオリンの名器ガルネリが税関当局に押収された。脱税調査のため証拠として押収したという税関当局のコメントがあったが、国際的な抗議活動もあり、9月20日になって税関当局は返還を決めた。 フランクフルトのしたたかさ、頑固さはまだ続いている。ドイツ在住で日系(父親がドイツ人、母親は日本人)の若手バイオリニスト・有希・マヌエラ・ヤンケさん(26)が日本財団から貸与され、演奏活動に使っている名器・ストラディバリウスを税関に押収された。9月28日に日本での演奏活動を終えてドイツに帰国した際、バイオリンを税関で押収され、関税として1億2000万円を請求されたが、今月になって無償で返還されたそうだ。 このニュースは続報がある。ドイツ財務省が税関当局にバイオリンの返還を指示したのに対し、税関当局が反発、職員が検察当局に脱税行為を手助けしているとして財務相を告発した、とドイツ大衆紙が報道した。 ショルダーバッグをひっくり返された日のことを思い出した。ドイツの税関職員は難しい顔をして堀米さんとヤンケさんのバイオリンを取り上げたのだろう。ドイツ人の几帳面さ、真面目さ、融通のきかなさを感じる。ドイツは芸術の国のはずだが、税関には芸術が分かる人間はいないのかもしれない。 ATAカルネという耳慣れない言葉がある。「ATA条約(物品の一時輸入のための通関手帳に関する条約)に基づき、職業用具、商品見本、展示会への出品物などの物品を外国へ一時的に持ち込む場合、外国の税関で免税扱いの一時輸入通関が手軽にできる通関手帳」「ATAカルネは外国への輸入税の支払いや保証金の提供が不要となる支払い証書」「一つのATAカルネで通関手続きの異なる数カ国の税関でも使用できるため、非常に便利な通関書類」だそうだ。芸術家といえども、こうした通関手帳の申請が必要な時代になっているようだ。 トルコの旅を終えて、イスタンブール、カイロを経由して帰国した。イスタンブール空港では、税関職員は免税品の扱いについてパスポートを確認するだけで、現物(トルコ絨毯やトルコ石)の確認はしなかった。両空港とも長い検査の長い列が続き、係官はつまらなそうな顔をしていた。(フランクフルトの税関職員は、もっと難しい顔をして私をお前は犯罪者なのではないかというような目で見ていたことが忘れられない)トルコから帰国して成田空港の検査官の穏やかな表情に安堵した。やはり、日本はいい。
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写真 1、カイロ空港 2、イスタンブール空港 3、トルコではドライブインでバスの洗車サービスがある