小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1001 たった1本のオリーブでも いつかは陽気さ伝わる日が

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隣の家との境に植えていたツルバラを思い切って切り、オリーブのレッチーノ(イタリア原産)という小さな苗を1本植えた。九州のオリーブ畑を見て、わが家にもほしくなったからだ。先日訪ねた長崎・平戸では、知人が耕作放棄地にオリーブを植えることになったと話してくれた。通信販売やホームセンターでも苗木が売られているので、昨今は日本でも静かなオリーブブームなのかもしれない。 平戸の知人は、地域興しの活動をしているNPOから、自分の家の耕作放棄地に「国から補助金が出るのでオリーブを植えないか」という話があり、50本程度植えることで契約したそうだ。平戸には、2年ほど前から耕作放棄地にオリーブを植えているNPOがあり、将来は平戸をオリーブの産地にしたいという夢を持っている。その夢の一環として、知人も協力することになったようだ。 日本のオリーブの産地は、香川県小豆島であることは以前のブログに書いた。しかし、長崎のNPOだけでなく、九州オリーブ普及協会というしっかりした団体が九州の耕作放棄地や遊休地にオリーブを植える運動をやっているので、今後、九州はオリーブの一大産地として名乗りを上げることになるかもしれない。 世界的に見れば、オリーブの産地はスペインやイタリアで、優れた品種もそちらにあるようだ。そこで九州オリーブ普及協会は、ことし3月、イタリアのオリーブ産地、トスカーナから5000本の苗木を輸入したという。これをめぐっては、以下のような話があったと聞いた。 輸入した苗木が植物検疫でストップをかけられたというのである。外来動植物に対する検疫は、日本では検疫法により実施されており、無作為に抽出して調べた苗木に、カタツムリ(エスカルゴ)が付いているのが見つかり、全部が焼却処分になってしまった。外来種のカタツムリが日本に入れば、日本の在来種の生態系に影響を及ぼすことになり、焼却処分はやむを得ない措置だと、協会関係者も思った。 そこで協会は、検疫の状況をイタリア側に知らせ、苗木を再送するよう交渉した。これに対しイタリアの業者は、当初「エスカルゴは高級な食材で、苗木も問題ない。日本の検疫はおかしい」と主張したという。何度かのやりとりで、ようやく再発送を認めさせたが、協会関係者は「大らかなお国柄なのかもしれない。なかなか検疫のことを理解してもらえず、大変だった」と話していた。 確かに国が違えば、考え方も異なる。日本のように四方を海で囲まれた地域では検疫が厳しくなるのは当然だが、一方ほぼ陸続きのヨーロッパのように、大らかな国々もある。オリーブ輸入の一例をとってみても、異なる国との交渉はそう容易いことではないことが分かる。この話を聞いた私は、オリーブを通じて、国際関係を勉強したように感じた。 わが家の苗木はまだ小さく、実がなるのがいつごろになるか見当がつかない。だが、次第に緑の葉が増え、いつしか実がなり、イタリアのあの青空と人々の陽気さを私たち家族にもたらしてくれる日が来るはずだ。暑い最中にびっしょりと汗をかいて土を掘り返しながら、そう思い続けた。 写真 九州で見たオリーブは実をつけていた