小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

774 絵本作家・加藤祐子さんとの出会い 絵心を考える

画像 女子美の4年生で、この春大学院に進むという絵本作家・イラストレーターの加藤祐子さんに会う機会があった。幼いころからの夢を実現した輝く才能の持ち主だ。 加藤さんは、2009年に福島県矢祭町で開催された第1回矢祭もったいない図書館「手作り絵本コンクール」に「シチューをもらったかえりみち」という作品を応募、最優秀賞を受賞した。 少年がおばあちゃんの家に行き、シチューをもらって帰る道で、いろいろな動物たちと出会った末にその動物たちと楽しく食卓を囲むストーリーで、登場する少年や動物の表情が面白く、ほのぼのとする絵本だ。 この作品には、なぜか人間は少年とおばあちゃんしか出てこない。しかも2人は別の家に住んでいる。シチューをもらった少年は家に戻り、動物たちと食事をするという設定だ。現実を考えるのが習慣の私は、少年の家の家族はどうしたのかという疑問を抱いた。それを加藤さんにぶしつけにも質問してしまった。 すると、子どもたちからも同じ質問を受けたことがありますと答えてくれた。そのうえで「大切な人とおいしいものを食べる幸せをストーリーにしたのです」と笑顔で話してくれた。 これが「絵心」なのだろう。加藤さんは「大切な人との食卓を囲む幸せ」という素直な気持ちをこのストーリーに凝縮させ、鮮やかな色彩で少年とおばあちゃん、動物たちを描いたようだ。 絵画や美術という芸術の世界は、人間の思いや美を追求し表現するものだ。現実にいつも目を向けている私には無縁の世界であり、つい加藤さんに愚問を発してしまったのだ。 加藤さんは小さいころから絵を描くのが好きで、絵の道を志したという。絵本から出てきたといってもおかしくない少女のような雰囲気を持っている。絵心は「豊かな感性」に通じる。 加藤さんに会う直前、滋賀県大津市で開催されたアール・ブリュット・ジャポネ凱旋展という障害者アート展を見た。アール・ブリュットは「絵画や彫刻などを既成の技法や学術的な知識とは無関係に自己流で表現した芸術作品」のことで、障害者の作品が中心だ。 昨年3月からことし1月までパリの市立美術館で日本の作品展が開催され、その作品展があらためて大津のホテルで開かれたのだ。そこには、不思議な空間が広がり、作家たちの感性の鋭さを感じた展覧会だった。最近、絵を習い始めた知人が複数いる。彼らは、実は隠れた才能の持ち主なのかもしれない。