小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

723 電子書籍時代は危機ではない 米文芸編集者の実感

アップル社のタブレット型コンピューター、iPadが日本でも発売され、電子書籍時代に入ったといわれる。それによって、日本の出版業界も大きく変化するのではないかという見方がある。

では、この電子書籍時代が進んでいる米国の編集者は「出版革命」ともいわれる新しい端末をどのように感じているのだろうか。その答えは意外とクールであり、楽観的だった。

東京で開かれた「私たちが世に届けたい物語」と題する公開シンポジウムを傍聴した。米国と英国を代表する出版社の編集者6人と日本側からも新潮社の編集長や読売新聞文化部デスクも参加した。この中で、私が一番興味を持ったのは、電子書籍時代になって、米国の出版社はどのように対応し、こうした新しい時代を編集者はどう感じているかということだった。

出席者は ザ・ニューヨーカー、 グランタ、ランダムハウス、ペンギン、フェーバー&フェーバーパブリシング、 コンスタブル&ロビンソン―という英米を代表する文芸雑誌と文芸出版の編集者だ。

電子書籍について、雑誌・グランタ編集長のフリーマン氏は「電子書籍時代は出版社の危機とは思っていない。マーケット拡大につながるので、楽観視している」と述べ、 ザ・ニューヨーカーのトリースマン編集長も「やることが増えているが、読者が必要ならやらざるを得ない」と語った。

これは前向きな話で、一方で「私は紙が好きだが、電子書籍は無視できない。必死についていっている状態」と、電子書籍が浸透しつつあるなかでの編集者の苦悩を語る人もいた。

日本の現状について、読売新聞文化部次長の尾崎真理子さんは「出版不況が常態化する中で、電子書籍元年を迎え、大手出版社の危機感が強い。出版社の潜在能力を広げて、出版物を加工できないかという時代になっている」と分析した。

米国人の知人がアマゾンの電子書籍端末「キンドール」を持っている。日本ではまだ手に入れることができないうちに(現在では購入可能)、米国の父親に頼んで購入し、送ってもらったそうだ。日本円で約1万6000円、最近はダウンロードした小説を電車の中で読んでいるそうだ。モノクロの画面で、目も疲れないという。ハードカバーよりは軽く、文庫本よりは重い。周囲の目が気にならなければ、彼のようにこの端末を使って電車の中で本を読むこともできる。

そうした時代なのだろう。だが、電子書籍を是認しつつ、電子書籍の先進国である米国の編集者の「紙の方が好き」という言葉に、私は共感する。