小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

646 長老記者の輝き W杯開幕とともに

南アフリカで、アフリカ初のサッカーのワールドカップ(W杯)が始まった11日夜、東京のプレンスセンターである長老記者を書いた本の出版記念会が開かれた。

この長老記者は、実は日本が初めてW杯に挑戦したスイス大会予選(1954年)のゴールキーパーだった。それから56年の歳月が流れ、22歳の青年は78歳になった。この夜、老記者を囲んで約150人の人たちが集まった。

長老というのは村岡博人さんのことだ。ことし9月には79歳になる村岡さんは元共同通信記者で、現在も東京MXテレビに席を置いて外務省クラブに通い続けている。村岡さんの生き方を中心に「ここに記者あり!」という本を共同通信の後輩の片山正彦さんが書き、岩波書店から出版された。

日本では村岡さんの存在は「希有」という表現が似合う。しかし、例えば米国からのニュースを見ていると、日本はまだまだだという思いがする。米国のホワイトハウス担当記者で最古参の名物女性コラムニストのヘレン・トーマスさん(89)が7日、引退を発表したというニュースを見てそれを実感した。

彼女はあるインタビューに答え「ユダヤ人たちはパレスチナから出て行け。あの人たち(パレスチナ人たち)は占領されている。あれは彼らの土地だ」「(イスラエ ルに在住する)ユダヤ人たちは、ポーランドでも、ドイツでも、アメリカでも、どこへでも帰ればいい」と発言した。この発言が批判を浴び、引退することになったという。

彼女の存在は別格としても、米国やヨーロッパでは高齢の記者は珍しくない。そうした記者たちは、長いジャーナリストとしての蓄積を生かし含蓄に富んだ記事を書いている。だが、日本ではジャーナリストの現役生活は欧米に比べ長くない。(最近、毎日新聞の専門編集委員が首相会見のぶら下がりにいるようだが)その中で、村岡さんの78歳という年齢になっても、現役を貫き通そうという姿勢には感服する。まぶしい存在といっていい。

出版のパーティの際も「岡田外務大臣の会見に出た後で会場に来ました」と村岡さんは話した。その執念の背景には何があるのだろうか。それは、本を書いた片山さんにも共通することだが、人一倍強い好奇心、粘りなのではないか。それを「記者魂」と表現することも可能だろう。村岡さんは、昨年体調を崩し入院した。その時に遺言を書いたという。

私は、村岡さんにはまだまだ現役を続けてほしいと思う。聖路加病院の日野原先生から見たら、村岡さんはまだ青年のようなものだ。たしかに昔の体力はないだろうが、洞察力では私たちは遠く及ばない。