小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

518 迷走運転手に笑う スペイン・ポルトガルの旅(5)

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クエンカは、人口5万3000人のスペインの中央に位置する都市だ。歴史的城壁都市として世界遺産に登録されている。ウエカル川の断崖に建つ「宙づりの家」が有名だ。(宙づりの家) マドリードからは車で約2時間と、そう遠くはない。しかし、私たちが乗ったバスは途中で道に迷い、日曜礼拝中の小さな教会のある街へと入り込んでしまった。そこを抜け出すために、パトカーで先導されるというサプライズがあり、さらにこのバスの運転手はこの後、2回の失敗を繰り返した。いまどき、こんな運転手がいること自体が驚きで、今回の旅の中でもけっこう思い出に残るものになるだろう。 小さな街に入り込んだ運転手は、薬局の前でバスを止めて中に入って行った。具合でも悪いのだと思った。しばらくして薬局から出てきた彼は、バスを走らせるが、どんどん一方通行の狭い道に入っていく。これ以上進入禁止の標識がある先は教会で、多くの人が集まっている。そのままではUターンできないため、進入禁止の杭を取り除いてもらって少し広い道まで出て、地元の人に応援でUターンした。すると、だれが通報したのか、女性警官が運転するパトカーがやってきて、バスの先導を始めた。 狭い道から幹線道路まで約10分。クエンカに向かう道路まで出ると、パトカーは止まって、女性警官はバスに向かって手を振ってくれた。バスの人たちも手を振ってお返しをする。それは、何とも形容がしようのない、面白い光景だった。 クエンカから、バスはバレンシアに向かった。ここでも世界遺産の建物(市場)を見て、ホテルへと向かうはずだったが、またも狭い道に入り込み、立ち往生してしまった。まっすぐ行くには両脇にびっしりと車が駐車している。右折は禁止で左折しか抜け出すことはできないが、この道も狭い。親切な住民がバスを誘導してくれる。 バスは思い切り左折を敢行し、左側にあった道路標識に思い切り車体をぶつけてしまった。バックと前進を繰り返して、15分近くを要してようやく左折ができると、バスの車内から拍手が起きた。このバスのすぐ後ろを走っていた地元の定期バスは狭い道でも難なく左折をしたので、運転技術の差か、慣れの問題かのどちらかなのだろう。 これですんなりとホテルに向かうはずだった。ところが、この運転手はまた途中でバスを止め、ちょうど止まっていた別のバスに乗り込み、運転手に道を聞いている。住所や電話番号は分かっているが、場所の見当がつかないらしい。ここでも15分ぐらい止まって、ようやく走りだした。ホテルに着くと、バスを降りる私たちに屈託のない笑顔を見せた。 この運転手は事前に地図を見て、道順を調べることをしなかったようだ。道路の案内を見ていれば、目的地に行くと思ったようだ。しかし、その案内を見誤り、地図も持たないのだから、ミスを繰り返すのは当然だろう。それだけスペインはのんびりしたお国柄なのだろうか。それにしても事故がなかったのは幸いだった。