小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

517 躍動、飛び散る汗・フラメンコ スペイン・ポルトガルの旅(4)

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アルハンブラ宮殿のあるグラナダ地方は、フラメンコの本場でもあるらしい。夜、9時前アルハンブラ宮殿を見下ろす高台にあるタブラオまで行く。日本でいえば、小さな芝居小屋みたいなものだ。 前方の小さな舞台があり、正面と左右に椅子席がある。正面はスペインの観光客、左右の席には外国人たちが座っている。注文した飲み物が来て、午後9時ちょうどにフラメンコショーが始まった。それは汗が飛び散る躍動感にあふれるショーだった。 フラメンコは、インド北部からアンダルシアに定住したジプシーたちの伝統的な踊りとアンダルシアの民謡、ユダヤ人の歌が融合したものだといわれる。歴史的にも迫害を受け続けたジプシーたちの心情がフラメンコという音楽の形式に具現されたもので、激しさと哀切さが入り混じった民族舞踊だ。 後ろにはトーケといわれるギターとフルートの伴奏者、カンテという歌い手がおり、バイレという6人の踊り手たちが勢ぞろいした。私たちは、ショーの前に「踊っている最中は微妙なリズムが狂ってしまうので、拍手をしないこと。拍手は演技が終わってからしてください」と注意を受けていた。ところが、前方の外国人グループの女性2人は、ショーが始まると、踊りに合わせて手拍子を入れてしまい、同じグループの男性から何度も注意を受けている。踊り手は男性が2人と女性が4人。小休憩を挟んで1時間半のショーは見応えがあった。 私はその夜、次のようなメモをしている。 1、ダンサーのタラップの激しさに舞台の床に何カ所か穴があいている。2、男性ダンサーの熱演に顔の汗が前方に飛び散り、最前列の観客にそれが当たった。(男性ダンサーは暑くても上着は脱がない)3、若手の女性ダンサーは自分の順番待ち中、先輩の足元をじっくりと観察している。4、1人の女性ダンサーの左手薬指と小指に白い包帯が見える。(どうしたのか?)5、かかとで連続してステップをやる男性の演技は、熟練の技であり、迫力満点だ。6、演技が終わって裏口へ抜けるドアから別の舞台の歌が聞こえる。同じ家で別の舞台もあり、掛け持ちして演じているようだ。 スペインは情熱の国といわれるが、このフラメンコショーを見て、それを実感した。長時間の飛行機とそれに続くバス移動でかなり疲れているはずなのに、そんな疲労感は吹き飛んでしまった。それほど、息詰まるような時間を送った。ショーが終わって、外に出ると、オレンジ色のグラナダの街の灯が、目に優しく映った。