小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

514 サグラダ・ファミリアは悪趣味か名建築か スペイン・ポルトガルの旅(1)

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建築が始まって、127年になるというのに、まだ完成していない建物がスペインのバルセロナにある。多くの人が一目見たいと憧れる「サグラダ・ファミリア」(聖家族教会)だ。 しかも、建築途上で一部がユネスコ世界遺産に登録されたのだから、不思議な建物だ。ポルトガル・スペインの旅の最終日に、この建物に行くと、世界各国から集まったと思われる多くの人々でにぎわっていた。中心になって設計を担当したスペインの名建築家のアントニー・ガウディが亡くなってもう80年以上経過したが、後を継いだ建築家たちによって、次第に形を整えつつあるようだ。 この建物は、カトリック団体が貧しい人々のための聖家族教会として計画し、1882年3月に着工した。初代の建築家が1年で辞任したため、当時無名だったガウディが引き継ぎ設計、建築を進めた。ガウディは、高台にある自宅から毎日往復10キロの道のりを歩き、仕事に取り組む。1926年6月7日、電車にひかれる(ミサに行く途中だったらしい)が、身なりに頓着しなかったため浮浪者と間違われ、手当も遅れて3日後に亡くなった。 その後、多くの建築家がこの建物の設計に参加し、幾多の変遷を経ながら建築が進められている。日本人の外尾悦郎氏が手掛けた「生誕のファサード」といわれる部分が世界遺産に登録になった。外尾氏以外の日本人も働いている。ちょうど建物内に入ると、その男性がいて、日本からの観光客の女性たちが「頑張って」と声をかけると、ニコニコしながら手を振ってくれた。現地ガイドは「彼はそんなに有名な人ではないの。そして恥ずかしがり屋なのよ」と教えてくれた。 これまでいくつかの教会の大聖堂を見た。それにしても、サグラダ・ファミリアに勝るものはないと感じた。それほど威容があり、装飾も凝っている。ジョージ・オーウェルは「カタロニア讃歌」という作品で、この建物について「現代的な大聖堂で、世界で最も醜い建物の一つだ。ちょうど白ワインボトルの格好をした銃眼模様の尖塔が四つある。バルセロナの大半の教会と違い、革命の間に傷つけられることはなかったが、美的価値ゆえに助かったのだという。尖塔の間に赤と黒のバナーを下げてはいたものの、折角機会があったのに、爆破しなかったアナキスト達は悪趣味だと思う」と酷評している。この評価が正しいのかどうか、私には分からない。 完成の予定について、現地のガイドさんは「2030年ごろになる」と話していたが、あくまで予定らしい。ガウディ自身は、このような壮大な建物の完成の時期をどう考えていたのだろうか。健康には十分すぎるくらい気をつけ、酒もコーヒーもやめ、野菜中心の食事で冬でも暖房を使わず、窓を開けて寝たという。仕事が終わると近くの教会でお祈りして帰るのが日課だったとのことで、サグラダ・ファミリアに心血を注いだことがしのばれる。その思いは、後世の建築家たちに受け継がれているのだろう。
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