小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

434 スーザン・ボイルさんの歌声 事実は小説より奇なり

いま、イギリスだけでなく、全世界を驚かせているのがスーザン・ボイルさん(47)という女性のユーチューブ映像だろう。

わずか7分余りの映像から、映画を見ているような不思議な感動を受けるのだ。「人は見かけによらない」というが、それを立証したのが彼女といっても言い過ぎではない。スーザンさんは教会のボランティアで求職中だそうだ。

イギリスのスターを発掘するテレビ番組をユーチューブ映像にまとめたものだが、彼女の姿は野暮ったくて、おばさんそのものだ。審査員も聴衆もばかにしたような表情をしている。何を歌うのかと聞かれたスーザンさんは、ミュージカル「レ・ミゼラブル」の「夢破れて」を歌うと答える。失笑する3人の審査員。だが、彼女が歌い出すと、会場は静まり返る。

美しく、情感あふれる歌が「おばさん」の口から出てきたからだ。女性審査員は驚きを隠せない。歌が終わると、審査員、聴衆は熱狂しスタンディングオベーションをする。そのまま帰ろうとするスーザンさんを審査員が呼び戻し、それぞれ感想を述べる。

「私がこの番組で審査していた3年間でこれほど驚いたことはない。言葉にならない。素晴らしい。ショックだ」「最初、ここにいる人すべてがあなたの敵でした。冷かかにみていた私たちをめざめさせてくれた。あなたの歌声を聞いて幸せです」「あなたが登場したときから分かっていた。素晴らしい歌声を聞くことができると。やっぱりそうだった」(これに対してはスタッフから、よく言うよという声も)

結果は、3人の審査員とも「最大のイエス」や「絶対にイエス」という評価を出したから、スーザンさんは歌手の世界に仲間入りするのだろう。このユーチューブは「歌は心」という題で紹介しているが、ほかにも「天使の歌声、スーザン・ボイル」としてこれより短くまとめているものもある。あまりにもできすぎている感じがして、テレビ局の「やらせ」ではないかとさえ疑ってしまう人もいるだろう。だが、本当の話のようなのだ。

新聞によると、この動画は世界で5千万回近く視聴されたというから、彼女は一躍「シンデレラおばさん」になったといっていいだろう。彼女の歌声を聞いていて、懐かしいミュージカル映画サウンドオブ、ミュージック」のジュリー・アンドリュース(73歳)を思い出した。透明感のある歌声が共通するのだ。

世の中には、スーザンさんのような埋もれた才能が少なくない。これほどの美声の持ち主でも、静かに47年を生きてきたのだ。実は、私たちの周囲にもそうした人たちはいるのかもしれない。そう思うと、人との出会いが愉快になる。「事実は小説より奇なり」を地で行くスーザンさんのCDを聞いてみたい。