小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

413 旅の出会い 北海道再訪(2)

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旅の面白さはいろいろあるが、行った先で土地の人たちと話をすることもその一つに入る。小樽は風情がある街だ。この街で印象深い2人に出会った。個性があってにくめない人物だった。それはこんなシーンだ。 JRの小樽駅を降り、こんな雑談をしながら運河方向に向かって歩いていた。「この冬は雪が少ないのかなあ」「そんな感じだね。この辺もあまりないよね」と。すると、近くを歩いていた50歳を過ぎたと思われる男性がいきなり近寄ってきて「そうですよ。60年ぶりの暖冬なんだわ」と声をかけてきた。さらに「海にはニシンがいっぱいやってきて、海がニシンで真っ白になったんだよ」とも言うのだ。 土地の言葉で、話しかけてきた彼は、これから近くのホテルに出勤するところだという。そこで「おいしいすし屋と温泉はどこがいいですか」と聞いた。彼は私たちが持っている小樽の観光案内の地図を開かせ、すし屋はここ、温泉は朝里川のここだと具体的に教えてくれた。しかもすし屋については「協同組合の組合長をやっている。地元の人が通う店だから安くてうまいよ」と、付け加えた。 こちらはおいしいという定評のある店を知っていてそこに行く予定だったが、この一言で予定を変更した。値段はまあまあだった。しかし、彼が推薦した割には、私たちのメンバーの評価は厳しかった。どちらかといえば、外れに近い印象だった。 運河を見て、駅に向かう途中、アーケード街にある「ぱんじゅう」の店に寄った。昔ながらの食堂のような店だ。中に入ると60歳前後の主人と奥さんが2人で切り盛りしている。 5人分を注文して立っていると、奥さんに順番待ちだと注意される。少し待って、焼きあがったばかりの「ぱんじゅう」を手にする。あんが入ったたこ焼きくらいの大きさのお焼きが出てきた。ご主人の食べ方の講釈を聞きながら、ふうふう言いながら、食べる。 聞くところによると、この店は人気店になっていて観光客にはやや冷たいのだそうだ。そんなものかと思う。その古風な風貌と物言いから「職人」の雰囲気が漂っていて、忘れがたい。北海道に住んだいた当時、このぱんじゅうの店に寄ったことがある。そのときは普通に接してくれたことを思い出した。いまや私はもう地元の人間ではないことを思い知った。 2人の小樽の人物から、私は強い印象を受けた。憎めない個性豊かな人との出会いがあったからこそ、小樽を歩いた時間は満ち足りており、時折吹きつける冷たい風も気にならなかった。