小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

411 現代社会の負を強調 湊かなえ「告白」

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湊かなえの「告白」は、現代社会のネガティブ面を強調したサスペンスで、救いようがない暗さを秘めた作品だ。 どうして、ここまで人間の弱さや暗さを延々と描くことができるのか考え込んだ。食べているときはおいしくても、後味が悪い食品を口に入れてしまったような感想を抱いた。 中学校を舞台に、この学校の女性教師の娘がプールで死んでいるのが見つかる。この事件(事故)から、端を発して女性教師の犯人に対する復讐告白から始まり、それぞれの登場人物が語り部となってなぜ子どもがプールで亡くなったかを明かしていく。それが悲劇の連鎖へと進むのだ。 子どもの死をきっかけに、それにかかわった2人の少年の身辺で最悪の事態が次々に発生する。この作品に描かれる学校、家庭、社会には未来はない。現代日本はここまで陰湿な社会になってしまったのだろうか。 一方で、この作品は意外な展開をたどり、読み始めたらやめられなくなる魅力もある。ストーリー性の豊かさは、天性のものなのだろう。シングルマザー、いじめ、引きこもり、HIVといった現代の象徴をちりばめていて、異次元の世界の話とは思えず、つい先へと読み進める。 読み終えて私はむなしい気持ちに陥った。湊がどんな思いでこの作品を書いたかは知らない。しかし、あまりにも現代社会を鋭く突き詰めて描いているが故に、再び読んでみたい本とはいえない。それがこの作品の欠点なのかもしれない。