小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

332 中欧の旅(6) チェコの古城でスリの話

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観光地はどこに行ってもスリの目が光っているのは、万国共通だ。日本では浅草や新宿などの繁華街では、いつも危険信号が灯っているといえる。それは、チェコでも同じだった。 プラハからバスで約3時間のチェスキー・クルムロフは、チェコの古城めぐりのハイライトともいえる高台の城が美しい。しかし、この城に向かう途中がスリの名所なのだった。 この城は、13世紀から14世紀にかけて築城されたもので、プラハ城に次ぐ大きさを誇る。この城を中心にルネッサンス当時の街並みが保存され、当然のように世界遺産になった。
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その結果、多くの観光客が世界各地から押し寄せ、スリのカモになるというわけだ。その場所は、S字を描くように流れているボルダウ川にかかるラゼブニツキー橋である。長さは20メートルくらいしかないが、ここから眺めるチェスキー・クルムロフ城は絶景だ。 しかし、この橋こそジプシー中心のスリの稼ぎ場所なのだと、説明された。ジプシーというと、ヨーロッパのマイノリティのことを言い、移動生活者や放浪者とみなされることが多い。日本人もこの橋でけっこう被害に遭っているという。添乗員さんによると、スリは1人ではなく、必ず複数で、中には子どもやきれいな女性も混じっている。 ラゼブニツキー橋はかなりの観光客でにぎわっている。カメラを持っている人が多い。渡り始めると、添乗員さんが「あすこにいるサングラスをかけた2人の女性が怪しい。気をつけて」と注意した。 20歳代と思われる2人の目立つ女性が橋の一角でカモを物色するように、立ち止まって話している。写真を撮って、後ろを振り返ると、2人はまだ同じ場所を占拠したままだ。「にらんできました。だからこちらには来ませんでした」と、添乗員さんが話した。 あるいは、間違えて「一緒に写真を撮りましょう」なんて話しかけたら、写真を撮っているすきに大事なパスポートやお金をすられる恐れがあったのかもしれない。
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以前、スリランカの空港で、税関職員を装った人物に持ち物検査を受けて財布から日本円をすりとられた苦い経験がある。それだけに、スリには敏感になっているので、添乗員さんの話は、他人事ではなかった。 佐藤多佳子の「神がくれた指」(新潮文庫)を読むと、名人芸のスリがいるそうだ。そうした人たちは日本だけでなく、世界の繁華街、観光地でカモを狙い続ける。ラゼブニツキー橋のあの2人がスリだとしたら、どんな芸を使うのだろうかと考えた。