小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

330 中欧の旅(4) プラハの花嫁

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世界遺産に指定されているチェコの首都プラハの旧市街にあるブルタバ川にかかるカレル橋を歩き、美しいプラハの街を眺めた。橋の上は観光客であふれるようだ。この後プラハ城に行き、さらに旧市街庁舎前の広場に足を運ぶと、再びすごい人の波に巻き込まれた。
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時間は午前11時ちょっと前だ。世界最古といわれる仕掛け時計を見ようとする人たちだった。旧庁舎内からは結婚式を終えた新郎新婦が車に乗り込もうとして、立ち往生する姿もあった ガイドブックなどによると、この時計は1410年に造られ、一度修繕されたものの600年近い時を刻んでいるのだという。この庁舎の北側部分は第二次世界大戦で焼失したが、時計塔の部分は戦災を免れたのだというから、運の強い時計なのだ。毎正時に仕掛け時計を見ることができるため、この人だかりとなったようだ。
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この旧庁舎で結婚式ができるのは、この地区に住む人たちだけだそうだが、多数の観光客に晴れ姿を見てもらえるのは、嬉しいことなのだろう。ちょうど建物から花嫁さんが出てきた。30歳は超えているよう見えるウエディングドレス姿の花嫁さんは、カメラを向けると微笑んでくれた。 各種統計によると、一人当たりの国民総所得(2006年)は今回訪問した5カ国ではオーストリアが3万9690ドルでトップ、以下ドイツが3万6620㌦、チェコ1万2680ドル、ハンガリー1万950㌦、スロバキア9870ドルと、かつて東欧といわれた3カ国はオーストリア、ドイツに比べ所得水準がかなり低い。しかし、ガイドさんの話を聞くと、プラハの市民は日本人よりも生活を楽しんでいると受け取った。 チェコでは金曜日の午後から仕事が休みとなり、プラハ市内から郊外に抜ける幹線道路は、遊びに出かける車で渋滞になるのだという。チェコ地震がないため、少し生活に余裕が出た市民は、郊外に土地を求め、自分で「別荘」を建ててしまう。 別荘といっても千差万別で、犬小屋に毛が生えた程度の掘っ立て小屋から大きな建物まである。土地も安く、1平米125円というのがあったそうだから、高給取りでなくとも、小さな別荘を持つのは夢ではないようだ そんな話を聞いていて、昼前に見た花嫁さんを思い出した。彼女もこれから夫とともに頑張り、金曜の午後からは別荘に行く生活をいつかは実現するのだろう。彼女の両親は、1968年のプラハの春(当時の社会主義体制に対する変革運動、ソ連を中心とするワルシャワ条約機構軍が軍事介入した。この夏、プラハの春40周年の記念式典が開かれた)を経験した世代かもしれないと思った。ソ連への従属体制時代はいまや遠くなり、プラハの市民たちの表情はおしなべて明るいという印象を受けた。 プラハの郊外の墓地には、1928年のアムステルダム五輪800メートルで日本の女子選手として初めて陸上トラック競技で銀メダルを獲得した人見絹枝の記念碑があるという。1930年にプラハで開催された第3回万国女子オリンピックに参加して人気を集めたが、この街で風邪をひいて体調を崩し、翌年24歳の若さで亡くなった。記念碑はそれを悼んだものだという。一方、日本では往年の女子体操選手、ベラ・チャスラフスカ選手のファンが多い。人見とチャスラフスカはスポーツを通じて日本とチェコの架け橋になったのだ。