小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

249 ある転勤 裁判官故郷へ

知り合いの裁判官が1日付で関東地方の裁判所から、故郷である関西の裁判所に異動した。関西地方で弁護士をしていた彼は「弁護士任官制度」により、裁判官になった。

関西の弁護士連合会が市民参加の協議会をつくり、彼を推薦したのは、2002年2月のことだった。誠実な彼の弁護士活動が、裁判官への道を開いたのだ。以来、関西の高裁と関東の地裁でそれぞれ3年ずつ勤務し、今度は郷里に近い裁判所に異動することになり、単身赴任の生活が終わった。

裁判官という人種は、世間の人にはその実態がよく分からない。何を考えているかも見当がつかないというのが、多くの人の思いではないか。あるいは、世間のことをあまり知らない変人が多いのではないかといううがった見方もある。

しかし、この弁護士出身の裁判官(仮にAさんと呼ぶ)の人となりを見ていると、全く普通の人と言い切ることができる。Aさんは穏やかで誠実、話しぶりも静かだ。だれからも好感を持たれるはずだ。

Aさんの奥さんは以前にこのブログで紹介した。大正から昭和にかけて福岡県大牟田市でクリスチャンとして多くの敬愛を集めた大城亀松氏をモデルにした小説「どろがめ」を書いた人だ。Aさんの送別会に姿を見せた奥さんと話をする機会があった。控えめな人柄に見えたが、ご主人が故郷に帰ることにはうれしさを隠さなかった。

私の知る裁判官はAさんのみならず純粋な人が多く、公平さを前提にしながらも、弱い立場の人たちの味方になろうとする姿勢を貫いている。その1人のBさんが同じ日に、別の裁判所に異動した。Bさんの仕事への強い情熱、判断力の鋭さは司法について門外漢の私にも、その口ぶりでよく伝わってきていた。こうした人々が第一線にいることが理想だろう。

裁判官の実態はよく分からないと書いたが、ある時、別の裁判官Cさんはこんなことを話してくれた。この裁判官は、民間への研修制度の1期生として、ある新聞社で研修を受けた。

社会部をはじめ、政治部や経済部、外信部と主要な部を回った。実際に取材をして記事も書いた。裁判官の研修が珍しいのか、どこの部でも同じことを聞かれたという。「裁判官は焼き鳥屋など飲み屋に行くのか」「パチンコはするのか」「風俗店に行った経験はあるのか」と。

これに対する回答。「有楽町のガード下のある焼き鳥屋で、難しい議論をしているのは裁判官です」「好きな人もいるようです」「それはノーコメント」。この3問だけでは、裁判官の実像は分からないが、Cさんはじめ酒が好きな裁判官は少なくないようだ。

来年5月までに刑事裁判では「裁判員制度」が始まる。裁判官にとっても、これまで以上に緊張を強いられる時代がやってくる。とすると、焼き鳥屋で議論する裁判官の数がさらに増えるかもしれない。