小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

221 NHK記者たちの株問題 波及する偽装社会

いまどき、NHKの記者たちによる株取引のような話があるとは。まるで組織の体をなしていないというのがこの公共放送局の実態なのだろうか。かつて報道機関の第一線にいた友人の話を思い出した。株の怖さである。

友人は株式の詳しい知人がいるそうだ。ある日、その知人から電話があった。「貯金があるなら少し取り崩して、私の言う株を100万ほど買ってみたら。確実に上がるという情報がある。いい小遣いになるよ」と。東証1部上場の中堅企業を名指して知人は株購入を勧める。友人は株には全く興味がなかった。それよりも、インサイダー取引という言葉が頭に浮かんだ。

友人は「私は興味がないし、金もない」と、申し出を断った。知人は「貯金がないなら銀行から借りてでも、買いなさい」という。「ええ、まあ」と返事しながら、友人は電話を切った。株の話は忘れた。

1週間後、知人から電話があった。「あの株はどうしたの。新聞の株式欄を見てごらんよ」と。株式欄を見ると、問題の企業の株は1週間前に比べ数千円上がっていた。「いやあ、買わなかったですよ」という答えに知人は「あの時買っていれば、車1台は買えたのに。○○さんは欲がないねえ。私はだいぶもうけたよ」と笑う。

友人は経済記者ではない。株とは直接縁がない部署にいるが、「株の怖さを知ったよ」と私に教えてくれたのである。「惜しいことをしたとは思わなかったかな」と聞くと、「まあね」と笑っていた。友人のように、報道機関に身を置くと、このような情報や誘惑に接することが少なくないのではないかと思う。

NHKの今度の事件は、特ダネを事前に見ることができるシステムを利用した「ハゲタカ」のような行為といっていいだろう。NHKという組織の職場がここまで荒廃しているとは。NHKの友人たちの顔が浮かんだ。報道よりも金が大事という人間がたぶんにこの組織には多いのではないかと邪推する。青臭い言い方をすれば「社会正義よりも私服を肥やす」ことを優先する人間を抱えた組織に堕してしまったのが天下のNHKだ。

先の友人に今度の話をすると「偽装社会の流れが報道機関にも及んでいるということかな。報道機関なんてそんなもんさ」と、彼一流の皮肉を込めた言い方が返ってきた。