小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

193 有頂天家族(森見登美彦著) 狸一家の抱腹絶倒の物語

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登場するのは狸に天狗に人間たち。善玉狸と悪玉狸一家の攻防を軸に、作者は想像をたくましてして、ストーリーを展開していく。複雑化した現代にあって、狸や想像上の怪物・天狗が人間の世界に入り交じって生活しているとしたら、考えるだけでも愉快である。 かつて、井上ひさしの「腹鼓記」という、狸と狐が人間を巻き込んで化かし合いをする小説を読んだ。江戸時代を舞台にした腹鼓記だが、井上の作品は現代を風刺していて小気味よかった。 一方で現代を背景にした有頂天家族も、人間と同様、狸の世界でも権力闘争、派閥抗争といった人間と同様の争いを繰り広げる姿をおもしろ、おかしく描いていく。 苦境にあっても、家族が一緒になることが大事であることを作者の森見登美彦は、この作品で訴えたかったのだろう。 狸の世界を治めていた父狸は、弟によって陥れられ「狸汁」になり、人間たちに食べられてしまう。残された母と4匹の兄弟狸は、どう闘うのか。 人間の世界。日本では核家族化が進行し、「家庭の崩壊」が以前から指摘されている。経済の高度成長期、父親たちは家庭よりも仕事を優先した。バブルが崩壊し、企業のリストラが進み、日本経済は持ち直した。 その結果、父親たちの家庭よりも職場、仕事優先の姿勢は復活しているようだ。この作品は、こうした日本社会の現在の在り方を、ユーモアたっぷりに皮肉っているように思えてならない。