小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

181 報復の連鎖に戸惑い 映画「キングダム」

画像
アメリカ映画「Ray/レイ」でアカデミー賞主演男優賞を取ったジェイミー・フォックス主演の最新作「キングダム」を見た。 サウジアラビアの外国人居住区で起きた自爆テロを題材に、米連邦捜査局(FBI)の捜査官役のフォックスら4人のチームがサウジの現場に入り、現地の警察官とともにテロの首謀者追い詰める映画だ。映画では極めて気になる場面が2つあり、それがイスラム社会と米国の間で繰り返される「報復の連鎖」を象徴していることに気が付いた。 死傷者300人を超えるという自爆テロでは、FBIの捜査官も犠牲になった。フォックスらFBIのチームは、穏健な解決を求める司法省とは別に、テロの首謀者を突き止めるために強引にサウジに入る。その際の会議でフォックスは、犠牲になった捜査官と親しく、茫然自失の女性捜査官ジェニファー・ガーナー(現地に一緒に入る一人)の耳元で何やらささやくのだ。そのささやきがどんな内容だったかは、終わりまで映画を見ないと分からない。 4人は現地の警察官とともに、限られた時間で事件の解決に乗り出し、イスラム過激派が首謀者と突き止め、激しい銃撃戦の末、家族と一緒にいた老人の首謀者を射殺する。撃たれた老人は、死ぬ間際に幼い孫娘に言葉をかけて息を引き取る。その声は周囲には聞こえにない。 実はフォックスと老過激派の台詞は一緒だったのだ。「敵(あいつら)を皆殺しにしてやる」という報復の言葉だった。フォックスはこの言葉が間違っていたと認識するのだが、目の前で祖父が殺された幼い子どもには、敵への憎しみの気持ちが強く芽生えたに違いない。 まさに憎しみの連鎖なのである。イラクではいまもこうした報復の連鎖が跡を絶たない。激しい戦闘アクションと推理を取り入れた娯楽映画にしては、テーマが重過ぎて、戸惑いさえ感じたのである。