小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

142 廃校を利用した美術館 栃木の山あいにて

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栃木県那珂川町は、旧馬頭町と旧小川町が合併して2005年10月にできた新しい町だ。福岡県にも全く同じ名前の町があるので、外部の人間から見ると、紛らわしい印象がある。この町の山あいにある美術館に行ってきた。 築100年以上が過ぎ、廃校になった木造の小学校校舎を使ったもので、なかなか味わいがあった。いま、廃校になった校舎を宿泊施設に使うケースもある。日本の伝統である木造建築は、捨てたものではないのである。 ある朝、東京から新幹線に乗り、宇都宮に向かう。約50分後には到着して、東北本線に乗り換える。目的地は3つ先の氏家だ。さらに、駅前からバスに乗り込む。乗客は数人しかいない。 途中大きな川が流れているのが目に入った。それが栃木県から茨城県へと流れる那珂川だ。那珂川の橋を渡ったところでバスを降りる。そこが那珂川町の小口地区で、バス停から坂を上っていくと、古い小学校の建物があった。裏手には里山がある。 旧小口小学校だ。この校舎は明治時代に建てられた。それを東京の建築家だった梶原紀子さんが借り受け、知的障害者の作品を展示する「もうひとつの美術館」をオープンしたのだ。2001年8月のことだ。この建物は、平屋建てで7つの教室がある。教室の床材は松を使っていて、美しくて丈夫だ。
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ベルギーのクレアムと呼ばれるNPOに属する10人の画家たちの作品展が開かれていた。廊下には遮光のため、すだれが掛かっている。梶原さんの案内で作品を見る。コラージュといわれる新聞記事を重ねて描いた作品やポスターの裏を使って絵を描いた作品などユニークなものばかりだ。 梶原さんは、なぜこのような場所に美術館を開いたのか気になった。次男が自閉症と分かった梶原さんは、息子のために田舎暮らしを考え、東京から栃木に引っ越した。同時に知的障害を持つ人々の作品を展示する美術館をつくることを決意した。 自宅近くにあった小学校が廃校になったのを知り町と交渉、こうしてもうひとつの美術館が開館することになったのだ。 全国に美術館は数多くある。その中で梶原さんの美術館は規模も小さく、展示物も少ない。だが、木の香りがして子ども時代の郷愁を感じさせる美術館はここだけだろう。柔らかな表情で語りかける梶原さんの話を聞きながら、そう思った。(2007.7.27)