小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

75 フラガール もったいない図書館 2つの奇跡

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これから紹介する2つのエピソードは「奇跡」と呼んでいいだろう。映画「フラガール」が第49回ブルーリボン賞で作品賞、主演女優賞(蒼井優助演女優賞富司純子)の3冠を達成した。さらにキネマ旬報の「第80回キネマ旬報ベスト・テン」(2006年日本映画ベスト・テン)でも1位になった。 この映画は、福島県常磐炭鉱が斜陽になったため炭鉱の町を再生させる目的で設立された常磐ハワイアンセンターで、「フラダンス」を踊る女性の物語である。 炭鉱夫の奥さんや娘さんが必死にフラダンスを習い、ショーとして根づかせるまでの苦闘を描いた名画だ。それはまさしく「奇跡」ともいえる誕生秘話なのだ。心に残る映画とは、この映画をいうのだと確信する。だから、2006年の邦画のトップに位置するのは当然だ。 そして、もう一つの奇跡が同じ福島県で生まれた。常磐ハワイアンセンターから車で約1時間半の「山と川のある町」に誕生した図書館だ。その町は茨城と県境にある福島県矢祭町という。図書館の名前は「矢祭 もったいない図書館」と呼ばれ、ことし1月23日にオープンしたそうだ。 なぜ奇跡と言うか。この町は、際立った産業はなく農業が中心の町だ。町民アンケートで「図書館がないのでぜひつくってほしい」という要望が強くあった。しかし、財政は厳しく、全国的に有名な町長(根本良一町長)の発案で全国から不要になった本を寄贈してもらい、それを基に図書館をつくろうと計画したのだ。 当初は半信半疑の町民たち。しかし、このユニークなアイデアがインターネットや新聞、テレビで知らされると、全国から続々と本が送られてきたのだ。その数、何と約30万冊。にわかには信じられない数字だ。町民は驚き、喜んだことは言うまでもない。 このおびただしい本の整理もボランティアが担当し、ことし1月23日、町立図書館がオープンしたのである。当初は3万6千冊を収蔵し、26万冊も整理が進められ、閉架書庫に収められ、順次活用されるという。こうして誕生した図書館は、蔵書数で福島県屈指だそうだ。 2つの奇跡を知り、この日本も捨てたものではないという感懐を抱いた。地方がこれからどのように活路を開いていくかを教える好例でもあるのだ。 (写真は全国から寄せられた本を整理するボランティア、読売新聞より)