29 晩節
福島県の前知事、佐藤栄佐久容疑者が大型ダム工事をめぐって、自分の弟経営の縫製会社の土地を時価より高値で買い取らせる形でゼネコンからわいろを受け取った疑いできのう東京地検特捜部に逮捕された。入札妨害(談合)で起訴されていた弟も収賄容疑で再逮捕された。
前知事は67歳。5期18年知事を務めたが、晩節を汚してしまった。晩節とは、晩年、老後、晩年の節操、あるいは季節の終わりの時期のことを言う。社会的に知名度のある比較的高齢な人物が、汚職などで逮捕された際に、晩節を汚すという言葉がよく使われる。
その意味でいうと、前知事の逮捕はやはりこの言葉が当てはまるだろう。老子の有名な言葉に「功成り名遂げて身退くは天の道なり」(立派な仕事を成し遂げて名を得たら、人にねたまれたりして災いが及ばないうちに、その地位から退く方が自然の摂理にかなった身の処し方だ)がある。
わが日本では昨今、この言葉に反する人物が何と多いことか。かつて、この人物はと思われたNTT会長の真藤恒会長がリクルート事件で逮捕されたのは78歳という高齢になってからだった。
つい最近では,村上ファンドに福井俊彦日銀総裁(72)が1000万円を投資して、利益を得ていたことが発覚、大きな問題になった。福井氏は辞任を拒否し投資で得た利益を寄付することで、総裁の椅子に座り続けている。福井氏は老子の言葉など聞く耳を持たないのだろう。
日銀総裁がこんな体たらくなのだから、日本は「金もうけ優先」「拝金主義」の国になっているといっても過言ではあるまい。だから、いい年をした著名人が晩節を汚してしまうのである。
福島県知事の場合、長い間知事の座にあったために、権力者としての力を過信し、弟とともに「暴走」してしまったのだろうか。
彼は、政府のプルサーマル計画(原発でウランのほかにプルトニウムを燃料として使用する計画)に反対の立場をとっており、「政府の方針に反対するものを排除する国策捜査の手に落ちた」という、うがった見方もある。
たしかに、最近の東京地検特捜部の捜査は恣意的で、国策捜査が多いと指摘する司法関係者もいる。そうだとしても、福島県知事の行動は、目に余るものがあったに違いない。
周囲に「イエスマン」しかいなくなったという多選知事のケースは少なくない。その弊害は住民に及ぶのだ。知事が晩節を汚してしまわないよう、住民の監視が重要なのだ。