1977 困難な未来予測 あなたは悲観的、楽観的?
現在の地球は混沌とした時代が続いていて、未来を予測することは難しい。できれば、楽観的に生きたいと思う。「21世紀の世界は、人間が未来を語るときに、今ほど暗い疑いを持つことのない世の中になるでしょう」(『深代惇郎の天声人語』朝日新聞)。46年前の朝日新聞の天声人語で筆者の深代は楽天的な見通しを書いた。だが、残念ながらこの予言は当たっているとはいえない。では、コロナ禍後の世界はどう変わるのだろう。(写真・霧に包まれた調整池と日の出の風景)
深代のコラムは、彼の急死(急性白血病)後に単行本とした出版された。このうち1975年10月30日に掲載されたものは「百年後」というタイトルで収録されている。その内容は、冒頭21世紀がどんな世の中になるのか、米国の専門家の「プラスチック全盛時代になり、栄養たっぷりでおいしいプラスチック料理ができるようになる」との予測を紹介しつつ、「われわれはプラスチックに囲まれて、理想社会に近づいているのだという信仰は、とても持ち合わせていない」と、疑問を呈している。(その通りで、現在は海洋へのプラスチックゴミの流入が社会問題となり、レジ袋の有料化など、プラスチックゴミを減らす取り組みが始まっている)
コラムは続いて、1920(大正9)年に『日本及日本人』という雑誌が知識人にアンケートした「百年後の日本」という特集について触れている。このアンケートから百年後は昨年(2020年)だったが、アンケートは人間自身の進歩については悲観的なものが多く、例えば作家菊池寛は「人間がだんだん幸福になってゆくかどうかは疑問」と答えたという。
コラムは最後に、社会運動家山川均の「百年後の日本は、百年後の予想を忌憚なく答えても、縛られる心配はなくなるでしょう」との答えは心打つものがあると書き、冒頭のような、深代の21世紀に関する予測でこのコラムを結んでいる。菊池寛や山川は慧眼を持っていたといえるだろう。コラムの筆者、深代は「新聞史上最高のコラムニスト」(後藤正治『天人』講談社)と評価された書き手だった。この予測は願望も含んでいたのだろうが、21世紀の世界は深代の願望通りにはなっていない。
未来を予測するということは、相当な洞察力を持っていなければできない。その分野の専門家でも、名高い占い師でも予測が当たるとは限らない。21世紀も5分の1が過ぎ、新型コロナウイルスによって1億人以上が感染する地球規模の感染症が出現すると、だれが予想しただろう。この感染症に対し、世界ではワクチンの接種が続いている。しかし、日本ではようやく今月中旬以降に始まる予定で「ワクチン開発後進国」といわれている。
かつて予防接種による副反応(以前は副作用といわれた)に対する訴訟(ポリオ生ワクチンや子宮頸がんワクチンなど)で国や製薬企業の責任を求める判決が相次いだことが、この背景にあるそうだ。裁判での敗訴の結果、国も製薬企業もワクチン開発に消極的になり、コロナワクチンの海外メーカーから入手という科学立国らしからぬ実態に陥ってしまったのだ。こうした国・メーカーの研究開発にかける姿勢は、お粗末そのもので未来を見据えているとはとても言えない。