1873 地図で旅する コロナ禍自粛の日々に
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため「他県への移動自粛を」や「越境しての来県を自粛を」と、自治体が呼び掛けている。他県ナンバーの車をチエックしている自治体、営業自粛の呼び掛けに応じず、営業を続けるパチンコ店の名前を知事が公表したというニュースも流れ、海外への旅行もできない。「コロナ自粛」の日々が続く中で、地図を見る楽しみがあったことを思い出した。地図を見て、頭の中で空想の旅をするのである。
これを教えてくれたのは、詩人の長田弘さん(1939~2015)だ。長田さんの『人生の特別な一瞬』(晶文社)という詩集に「地図を旅する」という詩が載っている。
《どこへもゆかない旅。動かない旅。
ただ、ここにいるだけの旅。しかし、どこへもゆかないで、どこ
へでも自在にゆける旅。
動かないで、知らないところへ自由にゆける旅。ただ、ここにい
るだけで、いつでもどんなところにもいることができる旅。
ふっと、そういう旅をしたくなると、大きな地図帳をひらく。大
きくて、ぶあつくて、詳しくて、しかも印刷のとても鮮やかな地図
帳を二冊、日本地図帳と世界地図帳を一冊ずつ。
インターネットの地図の時代のいまも、好きなのはその二冊の重
たい地図帳だ。
机の上ではなく、地図帳は、床にひろげる。
最初に偶然目にとめたところから、道をえらび、まず全体を俯瞰
するように眺める。地形がまるで立体のように見えてきたら、大き
な拡大鏡を手に、道をたどってゆく。地図を読む旅、シミュレーシ
ョンの旅だ。
地図の旅は、地名の旅だ。
街の名。道の名。駅の名。高原の名。山脈の名。海岸の名。ごく
平凡な名。とびきり風変わりな名。何と読むのかわからない名。伝
説をその名にのこす名。
地図の旅は、天候にも、時刻にも、何にもしばられない。峠を越
える。川に沿って下る。
空想の旅は楽しい。昼でもいい。真夜中でもいい。重たい地図帳
を床にひろげて、ゆっくり地図を旅する。緑の山地を通ってゆく。海沿いの道をゆく。
地図帳には、語られてきた物語と、語れなかった物語が、なま
じいの物語の本よりも、一杯つまっている。》
長田さんの詩は、コロナ禍で自粛を余儀なくされている私たちへの、アドバイスのようにも思える。そこで私も早速一枚の日本地図を床に広げた。先日、メールをくれた友人が住む山形を探す。そのメールにはおいしいことで評判の月山タケノコが例年より1カ月も早く出始めたことや自宅近くの崖地に9年前の東日本大震災後、鉱泉が湧き出ていることが記され、タケノコの写真と鉱泉の動画が添付されていた。
「この鉱泉を沸かせば黄金温泉(山形県大蔵村にある古い温泉で、重曹弱食塩泉を含む泉質)の湯のようになって、肘折温泉に入ったみたいに癒されるのではないか」と思う友人だが、まだ試してはいないそうだ。友人は、今のような時、「We Are the World」(1985年にアフリカの飢餓と貧困層解消を目的として世界の著名アーチストが参加して制作された)を口ずさむと、免疫力が上がって新型コロナが撃退できるのではないかとも思っているという。確かに力が湧いてくるいい歌だ。4月上旬に山桜が咲き、いつもより早い春がやってきた山形。ここもコロナ禍と闘っている。
新型コロナウイルスとの闘いでは、女性政治家の手腕が際立っている。台湾の蔡英文総統(63)、ニュージーランドのアーダーン首相(39)、ドイツのメルケル首相(65)の3人である。頼りにならない大統領や首相が目立つ中で、コロナに対峙する毅然とした姿勢は頼もしい限りといえる。私は日本地図に続いて世界地図帳を広げた。かけ離れたヨーロッパのドイツ、アジアの台湾、オセアニアのニュージーランドの順で、地図を眺める。以前訪れた街々の思い出が蘇ってくる。午後のひと時、長田さんの言う地名の旅を続けた。
皆様も、地図で旅をしてみてはいかがでしょうか。
写真は、カラーコーンに張られた公園での遊び方の注意書き
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