小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1862 東京五輪とコロナ WHOに多額拠出の背景は?

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 7月~8月開催予定の第32回東京五輪が、新型コロナウイルスによる感染症の世界的流行により揺れ動いている。選択肢は予定通りの開催か、延期か(1年あるいは2年)、中止かの3つだが、予定通りの開催は誰が見ても難しい状況にある。そんな中、日本政府が世界保健機関(WHO)に新型コロナ感染国への緊急支援用として新たに1億5500万ドル(為替レートの変動が激しいが、日本円で約165~約170億円)を寄付(拠出)したことが明らかになった。日本でもコロナ対策が急務の時に、多額の拠出金というニュースについて、その背景を考えた。  

 東京五輪をめぐってはこのところ様々な意見が報じられている。スポーツ行事はほとんど中止、延期を余儀なくされており、五輪開催も黄信号状態にある。大会組織委員会の高橋治之理事が各報道機関の取材に答えて延期の可能性を示唆したのは、観測気球という見方が強い。これに続いて国際オリンピック委員会IOC)のバッハ会長が、記者団に開催中止か延期の判断はWHOの勧告に従うと語ったと報じられた。この発言によってWHOの判断が注目を集めることになった。  

 新型コロナウイルス問題では、WHOの動きに世界から厳しい目が向けられている。エチオピア出身のテドロス事務局長の言動が中国寄りで、WHOの対応が後手に回っているように見えるからだ。多くの報道があるのでここで具体的なことは書かないが、テドロス氏は現地13日の記者会見で、新型コロナウイルス感染症への日本の対応について「安倍首相自ら先頭に立った、政府一丸となった取り組み」と称賛したという。  

 これを報じた共同通信ジュネーブ電は「テドロス氏が記者会見で加盟国の指導者の名前を個別に挙げ、ウイルス対策を称賛するのは異例。テドロス氏は、日本がウイルス対策で新たに1億5500万ドル(約170億円)を、感染国への緊急支援用としてWHOに拠出したことも紹介。外交筋は『あまりにも露骨』なリップサービス)と述べた」とも書いている。  

 1948年に設立されたWHOは国連の専門機関の一つで、世界の保健衛生向上のための国際協力が活動の目的で、分担金(通常の予算)と任意の拠出金で運営されている。日本はWHOへの支出は厚生労働省の予算になり、2017年度が62億2600万円、18年度39億5200万円、19年度14億6000万円を分担金として出している。今回は19年度分担金の10倍以上の任意の寄付をしたことになる。先ごろ中国が新型コロナウイルスの感染拡大防止のために日本円で21億円を、さらに韓国は3億円寄付(任意の拠出金)することも明らかになっているが、中国、韓国と比べてもその額は際立って高額だ。そのため、テドロス氏もリップサービスをしたのだろう。  

 国内では学校の突然の一斉休校によって各方面に多大な影響が出ている中でWHOへの多額の寄付。どう見てもIOC会長の見解表明と表裏一体の五輪対策ではないかと思ってしまうのだ。少しでも世界の感染拡大防止に役立つよう願うばかりである。  

 1940年9月21日からに開催予定だった第12回東京五輪は、拡大する日中戦争の渦中にあって中止、返上という汚点の歴史を残した。所管の木戸幸一厚相は組織委員会に相談せずに中止を打ち出したという(橋本一夫『幻の東京オリンピック講談社学術文庫)。戦争と政治に翻弄された悪夢の歴史から80年、今度は新型コロナウイルスという見えない敵が五輪開催に難題を突き付けた形である。  

 追記①東京五輪は24日夜の安倍首相とバッハIOC会長の電話会談で開催時期を1年程度延長することが決まった。当然のことだ。問題続出の五輪として、歴史に残ることになる。3月25日②WHOと米国、台湾間の応酬が激しい。WHOの動きが中国寄りで拠出金を停止を検討すると表明したトランプ米大統領武漢で特殊な肺炎が発生し、患者が隔離治療を受けており、注意してほしいという情報を送ったのにWHOは放置したとする台湾当局。新型コロナ感染がここまで拡大した責任の一端は間違いなくWHOの姿勢にあるだろう。それにしても世界が一体になって対応すべき災厄なのに、こうした対立は不幸なことだ。4月14日