小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1794 新聞と誤報について ハンセン病家族訴訟・政府が控訴断念

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 朝の新聞を見ていたら、「ハンセン病家族訴訟控訴へ」という記事が一面トップに出ていた。朝日新聞だ。ところが、朝のNHKや民放のニュース、共同通信の記事は「控訴断念の方針固める」と正反対になっている。どちらかが誤報なのだろうと思っていたら、安倍首相が会見し「控訴断念」を発表したから、朝日の記事は誤報だった。それにしてもこのような正反対の裁判の記事が出たのはなぜなのだろう。朝日の記者は詰めの取材が甘かったか、だまされたのだろう。
 
 ハンセン病家族集団訴訟は、6月28日に熊本地裁で判決があった。ハンセン病の元患者の家族561人が国に損害賠償と謝罪を求めたもので、判決で裁判所は隔離という差別政策をとった国の責任を認め、総額3億7675万円(1人当たり143万~33万円)の支払いを命じた。これに対し、朝日新聞は9日付の朝刊一面トップで「政府は控訴して高裁で争う方針を固めた。一方、家族に対する経済的支援は別途、検討する。政府関係者が8日、明らかにした。国側の責任を広く認めた判決は受け入れなれないものの、家族への人権侵害を認め、支援が必要と判断した」という記事を掲載した。
 
 ほかの新聞朝刊にこの記事は出ていない。事実なら朝日の特ダネ記事といえた。ところが、冒頭に書いたように、この記事の後追い取材をしたと思われる各報道機関は、正反対に「控訴断念」を流している。NHKは「安倍首相が決断」とも付け加えた。私の経験からしても往々にして後追いの方が正しいことが多いから、朝日の記事は間違いなのだろう。どうして、こうした記事が出たかは分からないが、取材相手の政府高官(あるいは関係省庁幹部)が朝日に対し(はめるために)不正確な情報を出したか、朝日記者が判断を誤ったとしか考えようがない。
 
 新聞社・通信社、放送局の記者に共通して求められるのは特ダネを取る一方で、特オチ(ほとんどの社が記事として出しているのに自分の社は出ていないこと)、誤報をしないことだ。特に誤報はその社の信頼を低下させるものであり、後を追うはずの社が正反対の記事を出していることに、朝日の担当記者は懊悩していることだろう。参院選最中のことであり、前のブログに書いたように、政権が選挙を意識して控訴断念へ動いた可能性がある。いずれにしても国が控訴しないのは当然なことであり、さらにハンセン病元患者家族の支援を進める必要があるのは言うまでもない。
 
 午前9時前のNHKを見ていたら、突然画面が切り替わって安倍首相が出てきて「(ハンセン病家族訴訟の)判決は一部受け入れがたい事実もあるが、(ハンセン病元患者)家族の筆舌に尽くせない経験をされたご家族の皆様のご苦労をこれ以上長引かさせることはできない」と述べ、控訴断念を表明した。ハンセン病元患者の裁判でも小泉首相の政治判断で控訴断念を決めており、それを踏襲したといえるが、やはり背景には選挙があったとみていいだろう。
 
 ▼追記 朝日新聞は9日の夕刊一面で「誤った記事、おわびします」という訂正記事を掲載した。「元ハンセン病患者の家族への賠償を国に命じた熊本地裁の判決について、朝日新聞は9日付朝刊で、複数の政府関係者への取材をもとに『控訴へ』と報じました。しかし、政府は最終的に控訴を断念し、安倍晋三首相が9日午前に表明しました。誤った記事を掲載したことをおわびします」というものだ。控訴断念に関する夕刊の記事を読むと、この決定が官邸(首相)主導だったことが分かる。
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 写真は、満開のサガリバナ(那覇市首里) 
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